2023年08月17日

日本対チャペル

英国ウェストミンスター マジストレイト裁判所のゴールドスプリング上級地方判事(首席判事)は、2023年8月11日、日本政府による英国人ジョー・アンソニー・チャペル氏の身柄引渡要請を棄却する判決を言い渡した。以下に判決全文の試訳を掲載する。


ゴールドスプリング上級地方判事

(首席判事)

イングランドおよびウェールズ

ウェストミンスター マジストレイト裁判所にて


日本政府


ジョー・アンソニー・チャペル



申立人政府代理人 ベン・キース氏、ジョージア・ビーティ氏
被申立人代理人 マーク・サマーズ勅撰弁護士およびジョージ・ヘップバーン・スコット氏
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「申立人政府による保証」に関する

判決

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はじめに

1.日本政府は、ジョー・アンソニー・チャペル氏の身柄引き渡しを要求する。本判決は本件に関してなされた3度めの判決であり、国際的に認知された人権基準違反の疑いに関する証拠を評価した先の2回の判決、特に第2回の判決と併せ読まれるべきである。

2.私は、2023年2月27日に詳細な判決を下し、その中で、日本においては、法が規定しているものとは異なる人権実務の実態があるとする弁護側の証拠を受け入れた。本判決は、裁判所が保証を求めたことに対する日本の対応と、その対応が被申立人の条約上の権利を保証するのに十分なものであるかどうかを扱ったものである。

3. 2度めの判決文をここで詳述する必要はない。しかし、私は同判決で述べた次のことを繰り返す。
「これに関連する本件のテーマの一つは、ある行動が許されるか許されないかを示すために、日本当局は、法令の文言に依拠している一方で、証人の口頭証言や複数の国際機関の報告書を含む各種の報告書は、日本の実務が[日本の]証人が主観的に依拠する法令の文言とは必ずしも一致しないということである。」

4.慎重に検討した結果、私は日本に対し、こうした実務からチャペル氏を保護する保証を提供する機会を設けることにした。 アランヨシ判決[訳者注1]に従い、私は日本に対し、その点について具体的かつ詳細な保証を提供するよう求めた。

5.保証を求めるプロセスは、この司法管轄区における身柄引渡し手続きの常套手段であり、裁判所はしばしば、米国、インド、南アフリカ、カナダ、その他多くの、法の支配が行われている友好的な外国政府に対してヨーロッパ人権条約の遵守に関する保証を求める。

6.ヨーロッパ人権条約第3条、第4条、第5条、そして第6条に違反する現実的な危険性を示す証拠に接して、この要請が行われた。私は当初はそのような意図はなかったが、国際礼譲の原則に従い、この要請を行うことにした。申立人政府の証人XXは、そうした実務は法律ではなく、法律は遵守されるだろうと何度も述べたのであるが、彼らは、その実務が行われないという口頭での保証を提供することを明確に拒否した。私は、国際礼譲を十分に認識した上で、この要請を行ったのである。

7.これに対し、日本は、4 人の異なる人物によって作成された 17 ページの文書(2023 年 5 月 22 日付け)を提出して、彼らの回答を示した。申立人政府 は、これらの文書は具体的、詳細、最新かつ厳粛な外交的約束であり、法律の問題として十分であると主張する。被申立人側は、これらの文書は審問で依拠された証拠以上のものではなく、単なる法律の説明であり、私の所見に照らせば、実際の慣行が法令を遵守していることを保証するものではないと主張する。

8. ギース対アメリカ合衆国政府事件Giese v Government of the United States of America [2018] EWHC 1480 (Admin) が本件で引用された。特に同判決のパラグラフ38で、部門裁判所が以下のように述べている箇所が引用された:
「......使用された言葉を技術的に分析し、その言葉から逃れるためにあらゆる手段を講じるのではないかという疑念のレンズを通して、その保証を見るべき国家があるかもしれない。しかし、それは、与えられた約束が守られることが期待される、法の支配が行われている友好的な外国政府を扱うときには適切ではない。... 」

9.これらの見解はその後、インド対チャウラIndia v Chawla [2018] EWHC 3096 (Admin)で支持された。同判決において高等法院は、拘禁の条件に関してインド政府が提供した保証を受け入れた。

10.この点について、2点指摘したい。第1に、後に明らかになるように、いかなる保証についても「潜脱される」と言われている訳ではない。日本政府の応答はそもそも保証ですらないというのが被申立人の主張である。第2に、合衆国やインドとは違って、英国は日本と身柄引渡条約を締結していない。その理由は完全に明白とは言い難いが、本件は最初の引き渡し要請である。英国大使館から英国国民に提供された文書(第2の判決で言及されている)からその理由をある程度洞察することはできる。その文書の中で外交サービスが表明した懸念を考慮すれば、サマーズ勅撰弁護士が引用するスコットランド男爵夫人の言葉――2003年法となった法案を提出する際に政府を代表して述べた言葉――が適切である。
「...一般的な身柄引き渡しの取り決めがない国は、乱暴な言い方をすれば、人権上の理由から身柄引き渡しができないような国であることが多い」。


11.両国にとって、この新しい領域は混乱を招くものであろう。しかし、良好な外交関係を享受しているからといって、申立人政府が国際基準を遵守する義務を免除されることはない。2003年身柄引渡法(EA2003)は、ヨーロッパ人権条約に照らして現地の実務を評価することを裁判所に求めている。

12.従って、私は、その保証が法律上信頼されるための基準に照らして、客観的かつ厳密に精査しなければならない。

法的枠組み

人権条約第3条  保証と一般原則

13.条約上の権利侵害が問題になる事件における保証の提供に関する原則については、ヨーロッパ人権裁判所のオスマン対英国Othman (Abu Qatada) v UK [2012] 55 EHRR 1に示されている。この事件はヨーロッパ人権条約における多数の違反が問題になった。しかし、すべての権利侵害についてその原理は同一であった。オスマン事件でヨーロッパ人権裁判所が問題としたのは、得られた保証が、違反の現実的なリスクを取り除くのに十分であったかどうかであった。本事件に関連する限り、発表されたガイダンスには以下のような内容が含まれていた:

14.われわれには問題の保証がその実際的な適用において、申請者が不当な扱いの危険から保護される十分な保証を提供するかどうかを検討する義務がある。受入国からの保証に与えられる重みは、それぞれの場合において、問題の時点で一般に行われている実務に依存する。

15.裁判所は、第一に、提供された保証の質を、第二に、受領国の実務に照らして、それらが信頼できるかどうかを評価する。

16.法律もこのことを認めており、法理論によれば、その保証がオスマン対英国Othman (Abu qatada) v UK (2012) 55 EHRR 1で示された基準に準拠しており、そのような保証が守られないという説得力のある証拠がない場合には、条約上の権利侵害に対する十分な保護が存在することになる。

17.その基準とは
" 188. 保証の実際的な適用を評価し、保証にどのような重みが与えられるべきかを決定する際、予備的な問題は、受諾国における一般的な人権状況がいかなる保証も受け入れることを排除するかどうかである。しかし、ある国の一般的な状況によって、保証にまったく重みが与えられないということは、まれなケースに限られる(例えば、Gaforov v. Russia, no 25404/09.Russia, no. 25404/09, § 138, 21 October 2010; Sultanov v. .Russia, no. 15303/09, § 73, 4 November 2010; Yuldashev v. .Russia, no. 1248/09, § 85, 8 July 2010; Ismoilov and Others, cited above, §127).

189. 通常、裁判所は、第一に、提供された保証の質、第二に、受諾国の実務に照らして、保証が信頼できるかどうかを評価する。その際、裁判所は特に以下の要素を考慮する:

(i) 保証の条件が裁判所に開示されているかどうか(Ryabikin v. .Russia, no. 8320/04, § 119, 19 June 2008; Muminov v. .Russia, no.42502/06, § 97, 11 December 2008; Pelit v. .Azerbaijan, sited above);

(ii) 保証が具体的であるか、一般的で曖昧であるか(Saadi, cited above; Klein v. .Russia, no. 24268/08, § 55, 1 April 2010; Khaydarov v. .Russia, no. 21055/09, § 111, 20 May 2010);

(iii) 誰が保証を与えたのか、またその人物が受領国を拘束できるのか(Shamayev and Others v. Georgia and Russia No.Georgia and Russia, no.36378/02, § 344, ECHR 2005-III; Kordian v. .Turkey (dec.), no. 6575/06, 4 July 2006; Abu Salem v. .Portugal (dec.), no. 26844/04, 9 May 2006; cf. Ben Khemais v. Italy, no. 246/07, § 59, ECHR 2009-... (extracts); Garayev v. .(extracts); Garayev v. . Azerbaijan, no.53688/08, § 74, 10 June 2010; Baysakov and Others v. Ukraine, no.54131/08, § 51, 18 February 2010; Soldatenko v. .Ukraine, no. 2440/07, § 73, 23 October 2008);

(iv) その保証が受入国の中央政府によって出されたものである場合、地方当局がその保証に従うことが期待できるかどうか(Chahal, cited above, §105-107);

( v ) その保証が、受入国において合法または違法とされる待遇に関するものかどうか(Cipriani v. Italy (dec.), no. 221142/07, 30 March 2010; Youb Saoudi v. .Spain (dec.), no. 22871/06, 18 September 2006; Ismaili v. .Germany, no.58128/00, 15 March 2001; Nivette v. .France (dec.), no 44190/98, ECHR 2001 VII; Einhorn v. .France (dec.), no 71555/01, ECHR 2001-XI; Suresh and Lai Sing, both cited above)。

(vi) その保証が 締約国によって与えられたか否か(Chentiev and Ibragimov v .Slovakia (dec.), nos. 21022/08 and 51946/08, 14 September 2010; Gasayev v. .Spain (dec.), no.48514/06, 17 February 2009);

(vii) 送出国と受入国との間の二国間関係の長さと強さ、受入国が同様の保証を遵守している実績(Babar Ahmad and Others, cited above, §§107 and 108; Al-Moayad v. .Germany (dec.), no.35865/03, § 68, 20 February 2007);

(viii) 保証の遵守が、申請者の弁護士との自由な接見を提供することを含む外交的またはその他の監視メカニズ ムを通じて客観的に検証できるかどうか(Chentiev and Ibragimov and Gasayev, cited above;Ben Khemais, § 61 and Ryabikin, § 119, both cited above;Kolesnik v .Russia, no. 26876/08, § 73, 17 June 2010; see also, Agiza, Alzery and Pelit, cited above);

(ix) 受け入れ国に拷問に対する効果的な保護制度があるかどうか(国際監視機構(国際人権 NGO を含む)に協力する意思があるかどうか、拷問の申し立てを調査し責任者を処罰する意思があるかどうかを含む)(Ben Khemais, §59, 60;Soldatenko, §73, both cited above;Koktysh v. .Ukraine, no.43707/07, § 63, 10 December 2009);

(x) 申請人が以前に受入国において不当な扱いを受けたことがあるかどうか(Koktysh, § 64, cited above)、そして

(xi) 送出国/締約国の国内裁判所によって保証の信頼性が検証されたかどうか(Gasayev; Babar Ahmad and Others, § 106; Al-Moayad, § 66-69)。

18.従って、以下に述べるのは、上記の基準に照らして、当裁判所が認定した人権侵害と思われる行為の一部に対する日本の対応を検討するものである。私は、被申立人の提出文書から多くを引用することを躊躇しない。なぜなら、私は彼らの分析に多くの点で同意できるし、それ以上の分析を行うことができないからである。

19. 私がこのようなアプローチを選んだのは、日本からの回答の多くが、私が知り得た事実や意見と合致しないからである。論点が多岐にわたるため、すべてのトピックを分析したわけではないが、以下の例は、裁判所の考え方や私の結論の根拠を当事者に理解してもらうためのものである。

20.私は判断を下すにあたり、申立人政府からのその段階での回答に満足していないこと、とりわけ、申立人政府側の証人が何度もその用意があるかどうか尋ねられたにもかかわらず、権利保護の保証を与えなかったことに満足できないことを明らかにした。少なくともそうしたつもりだった。そのような背景のもと、今回の日本政府の回答がなされたのである。

ヨーロッパ人権条約第3条[訳者注2]に関連する現実的なリスク

ダイヨーカンゴク

制限時間の潜脱

21.日本の回答は、「関連犯罪」(「原則として、23日間に限定される」拘禁期間をもたらす)について、私がすでに持っている証拠を繰り返しているだけだ。それは、犯罪事実を分割して、それぞれに23日間の制限を当てはめるというやり方で拘禁期間を実質的に延長することができるし、また、実際にもそれが行われているという事実を無視しているようである。この点については、ゴーン事件や私が認定した事実を参照されたい。また、日本の回答は、警察や検察による制限潜脱の問題にも触れていないようで、チャペル氏のケースでそのような潜脱が行われないという保証にはならない。オスマン基準によれば、この回答は具体的ではなく、むしろ一般的で曖昧である。

警察留置場での不当な扱い


22.このトピックに関する日本の回答も、警察留置場の物的条件に関する法律の要請を繰り返し引用するだけである。法律の文言ではなく、その潜脱こそが私の懸念事項なのであるが、日本の回答はそれには答えない。それゆえに、チャペル氏がそうした実務の対象となっているかどうか監視し評価することもできない。日本政府の回答は、ここでも個別的な保証に値せず、ただ法律の枠組みを一般的に要約するだけである。これでは、オスマンに準拠した保証の水準に達していない。

拘束具の誤用

23.日本は、たとえば、「被拘禁者が留置担当官の命令を無視して大声を出したり騒いだりした場合」に拘束具を使用することを再度主張している。

24.日本は拘束具の誤用は存在しない、なぜなら法がそれを許容しないからだと述べる。しかし、裁判所が採用した証拠に基づいて私が認定したところでは、そうした誤用は確かに存在する。不幸なことに、誤用が可能であり現に存在するという認定がなされているにもかかわらず、彼らは、そうした実務がチャペル氏には適用されないことを確保するための保証を提供しない。この回答はまたもやオスマンに反している。

弁護士へのアクセス

25.日本は、弁護人の選任を管理する様々なルールを列挙した。このことはむしろ、私が所見を述べる際に抱いた懸念を強調するものである。すなわち、被疑者を彼の弁護士に会わせることが「捜査に重大な支障が生じる」と警察が判断した場合には、弁護士との面会を『除外』することができる。

26.こうした例外がチャペル氏に適用されないことを確約する保証はなされなかった。形式的にも精神的にも保証と言えるものはない。

圧迫的な取調べ -その長さ

27.当裁判所は、チャペル氏の場合、取調べが「個別的にも累積的にも圧迫的な長さにはならない」という個人的な保証を求め、その裏付けとして、「各取調べや一連の取調べが圧迫的な長さにならないことを保証するために、どのような措置が講じられるかについての詳細な保証」を求めた。

28.日本の回答は、ここでも、取調べに適用されるルールを引用するだけである。サマーズ氏が指摘し、私も同意するように、実際には、規則の引用を繰り返すということは、証人が語った濫用を許している広範な例外の存在を再確認することにしかならない。日本政府の「保証」には、こうした例外がチャペル氏に適用されないことを示唆するものも約束するものもない。したがって、それはオスマンに準拠しているとはいえない。

抑圧的な取調べテクニック

29.「取調べは、国際的な公正の基準を尊重した方法で行われなければならず、自白を確保するために抑圧的な行動をとること、たとえば、怒鳴る、髪を引っ張る......といったこと排除するために保証が提供されなければならない」と私は判断した。

30.ここでも日本は、警察の取調べを規定する規範、法律、警察内部のガイドラインを繰り返し引用するだけである。チャペル氏に対して抑圧的な取調べが行われないという「保証」は与えられなかったし、また、チャペル氏のケースでそうした濫用が行われないようにするための監視メカニズムも提供されなかった。日本が示した最高水準のものは、「取調べの監督者」が「取調べの状況を検査」し、抑圧的な取調べの手法を観察した場合には取調べを中止することができるという示唆である。

31.そのような監督者が組織的に独立した存在であるという保証も、チャペル氏の取調べにずっと立ち会うという保証もない。この回答は、容認できる保証にはならない。

取調べへの弁護人立会並びにビデオ録画がなされないこと

32.「日本が弁護人を取調べそのものから完全に排除している」ことが「人権条約違反の明白な危険性を生じさせている」と判断した私は、チャペル氏のケースについて、「取調べ中に...弁護士の助言を受けられるようにする措置」が取られることを個人的に保証するよう要請した。

33.日本の回答は、チャペル氏の弁護士が例外的に取調室への入室を許可されることを保証するものではない。1984年警察刑事証拠法(PACE1984)が掲げているような例外的な理由もなしに、取調べ中に弁護人を排除することは非常に問題である。例外を原則化することは、ヨーロッパ人権条約6条[訳者注3]に基づく公正な裁判の保障を明白に否定するものである。私は、日本がチャペル氏に対してこの国際的に認められた最低基準を提供するという保証を提供しない理由がわからない。国内の被拘禁者や被疑者と異なる保護を身柄引渡人に与えることは、身柄引渡手続きでは珍しいことではなく、むしろ、国家間で法律や実務に違いがあることは避けられないのである。 同じことが、ある程度の予防装置となるべき取調べのビデオ録画に関しても言える。日本は、ここでも、取調べは通常ビデオ録画されるが、例外は適用されるというルールを述べただけである。チャペル氏に対してそうした裁量の余地がないことを保証することはできるはずだが、彼らはそれをしなかった。提供されたものは保証と言えるものではない。

未決拘禁

拘禁場所が不明

34.チャペル氏がダイヨーカンゴクから出所した後、公判前にどの拘禁施設に拘禁されるのか明らかではないので、私は「チャペル氏が公判前に収容される施設を明示するように[日本に]要請した」。

35.日本は刑事施設名を挙げることを拒否している。その結果、公判前勾留に関する回答は一般的なものであり、施設に特化したものになっていない。このこと自体がオスマン基準に抵触する。それでも検討すべきだという主張もあり得るが、回答が漠然としているために適切な分析が行えない。日本がいずれの施設でも保障されるものであることを示していると思われる回答を取り上げてみても、それをどのように評価しかつ監視することができるのかは、不明である。

物的環境

36.私は、チャペル氏が公判前勾留において、次のような状況にさらされる現実の危険に直面していると判断した:
(i)「夏の耐え難い暑さ」
(ii) 冬の「厳しい寒さと暖房の欠如」
(iii)「一晩中明かりが点いている」
(iv) 「不必要な水の使用の禁止」。

37.そこで私は、チャペル氏に関して、以下の最低基準が「遵守される」という保証を求めた:
(i)「熱交換システムが設置され稼動しており、冬は暖房を、夏は冷房を供給する」、そして「このシステムは、単に利用可能なだけではなく、必要なときに実際に使用される」。
(ii)「希望すれば、居房は暗闇にすることができる」
(iii) 「居房内及び入浴やトイレを使用する際のプライバシーと尊厳」
(iv)「入浴や洗髪など、身の回りの世話に必要な水を十分に利用できる」
(v) 「適切かつ清潔なベッドと寝具 」
(vi)「適切な衛生施設へのアクセス 」
(vii) 「十分な採光と換気」

38.日本が実際の拘禁施設を特定しないので、その回答は当然のことながら曖昧で一般的なものに過ぎないが、それでも以下のような保証をしている:
(i) 拘禁施設には通常、冷暖房システムが「必要に応じて」設置されており、これらのシステムは「適切に使用」されている。これは明らかに、要求された具体的な保証には及ばない。当裁判所が採用した証拠によれば、システムは設置されているかもしれないが、実際には経費節減の目的で使用されていないことがある。
(ii)施設の居房は、夜間でも常に「最小限の明るさ」を保っている。
(iii) 施設のトイレは一般的に仕切られている。居房内のプライバシー(独房内カメラなど)や入浴時のプライバシーについては何も語られていない。
(iv)被拘禁者は、通常、週に3回の入浴と洗髪が許されている。これは明らかに、要求された具体的な個別保証には及ばない。当裁判所が採用した具体的な証拠によれば、経費節減目的のために、そのような設備が実際には差し控えられることがある。
(v) 刑事施設に関する法では、「衣類と寝具」を提供することが義務づけられている。つまり、ベッドは保証されていないということである。
(vi) 法は刑事施設の衛生環境は一般的に「適切」に保つことを要請している。
(vii) 刑事施設は通常、「適切な」自然光と空気を提供するように建設されている。

39.刑事施設の名前が明記され、提起された懸念のそれぞれがどのように適切に対処されているのか、具体的な詳細が示されない限り、保証が不十分であることは明らかである。

医療

40.私は、医療の十分性に懸念があると判断し、「必要かつ合理的な医療が、いかなる期間においても[チャペル氏に]提供され、被告が医療や医療施設を利用できるよう、あらゆる合理的な措置が取られる」ことの保証を求めた。

41.日本は、日本の刑事施設はすべての被拘禁者に「十分な」医療を提供しているという主張を繰り返す。医療の適切さにはばらつきがあり、申立人政府は施設を特定することを拒否しているという事実があるため、このような全般的な主張が、長期に及ぶ可能性のある拘禁期間を通じて被申立人の医療ニーズに対して十分に具体的であり、意味のあるものであるという十分な安心感を当裁判所に与える保証になるとは考えにくい。

規律

42.私はさらに、チャペル氏が公判前拘禁において、特に以下のような現実にさらされる危険に直面していると判断した:
(i)運動...1日30分以内(居房から運動場への移動時間を含む)。
(ii)面会が厳しく管理されている
(iii)信書についてプライバシーの保証が全くない
(iv)電話を利用できない
(v)運動時間や休憩時間など、特定の時間帯にのみ会話が許可される
(vi)弁護士への実質的なアクセスがない。

43.そこで私は日本に対し、チャペル氏が「1日30分以上の適切な運動が許可される」こと、「家族、弁護士、大使館職員のいずれか、または両方との面会が認められる」こと、「彼の個人的な通信は日常的に検閲されることはなく、厳密に必要な場合にのみ検閲される」こと、「彼の法的助言者との通信は閲覧されない」こと、そして「家族や友人との連絡のために電話を使用することが許可される」ことを保証するよう要請した。

44.「日本の法律では "少なくとも30分 "の運動が義務付けられている」というのがその回答である。

45.これは30分「以上」ではない。また、居房から運動場への移動時間が含まれるという問題や認められる運動の条件について触れていない。ここでも日本は、通常の規則を繰り返すだけで、そのような実質的な環境がヨーロッパ人権条約3条に適合していないことを認識していない。しかも、証拠によれば、そのような最低基準さえも常に守られているわけではないのである。

46.回答は、公判前被拘禁者の場合、日本の法律では「原則として」所長が面会を完全に「禁止」することは認められていない。しかし、それはチャペル氏の面会が禁止されないことを保証するものではない、と続けている。

47.公判前の被拘禁者について、日本の法律は所長と職員が「手紙を調べる」ことを認めており、さらに「原則として、すべての手紙は調べる対象となる」と述べている。

48.チャペル氏の信書のプライバシーに関しては、何の保証も提供されなかった。チャペル氏の法的信書でさえ、「必要な範囲で」検閲されるらしい。 弁護士・依頼人間の通信の秘匿特権が日本に存在するかどうかは不明であり、回答はこの特権が存在しないことを示唆している。第6条の基礎的な保証の一つは、法的助言者との通信の秘密であることは明らかであるが、日本はチャペル氏にそのような保護を保証していない。

49.私が申立人政府に「裁判所の意見を十分に検討するように」要請したにもかかわらず、チャペル氏が公判前勾留中、運動中や休憩時間以外に話すことを例外的に許すという保証はなされなかった。 日本で拘禁されることに伴う現実を直視すべきである。 チャペル氏は友人や家族から完全に隔離され、日本語を話すことができず、英語を話す囚人や看守が事態に対処する必須な助けとなる可能性があるが、文化的規範や刑務所の規則がどのようなものであれ、非人道的な処遇、少なくとも全体的な環境がそうなるような条件を作り出す可能性があるのであり、それは人権条約3条に適合しないのである。

ヨーロッパ人権条約5条に関連する条件

ヨーロッパ人権条約5条はこう規定する;
(1) すべての人は、自由および身体の安全に対する権利を有する。何人も、次に掲げる場合及び法律の定める手続によらなければ、その自由を奪われない:
(a) 所轄裁判所による有罪判決後の合法的な拘禁
(b) 裁判所の合法的な命令に従わないため、または法律で定められた義務の履行を確保するために、人を合法的に逮捕または拘禁すること。
(c) 犯罪を犯したという合理的な疑いにより、又は犯罪を犯し、若しくは犯罪を犯した後に逃走することを防止するために合理的に必要と認められる場合に、その者を権限のある司法当局に連行する目的で行われる適法な逮捕又は拘禁。
(d) 教育上の監督を目的とする適法な命令による未成年者の拘禁又は管轄の法律当局に提 出することを目的とする未成年者の適法な拘禁
(e) 伝染病の蔓延を防止するため、心神喪失者、アルコール中毒者、麻薬中毒者又は浮浪者を適法に拘禁すること。
(f) 無許可の入国を防止するため、又は国外追放若しくは犯罪人引渡しのための措置が取られている者を適法に逮捕又は拘禁すること。
(2) 逮捕された者は、すべて、速やかに、その者の理解する言語で、逮捕の理由及び自己に対する罪状を知らされなければならない。
(3) 本条第 1 項(c)の規定に従って逮捕され、又は拘禁された者は、裁判官その他司法権を行使する権限を法律で認められた職員の面前に速やかに連行されるものとし、相当な期間内に裁判を受け、又は裁判を受けるまでの間釈放される権利を有する。釈放は、裁判に出頭することを保証することを条件とすることができる。
(4) 逮捕又は拘禁により自由を奪われた者は、すべて、その拘禁の適法性を裁判所がすみやかに決定し、その拘禁が適法でない場合にはその釈放を命ずる手続をとる権利を有する。
(5) この条の規定に違反して逮捕され、又は拘禁された者は、すべて、強制執行可能な補償を受ける権利を有する。

50.同条約の解説書によれば、6条の権利は5条と同じ意味と範囲を有する。それらに課される制限は、人権条約が許容する範囲を超えることはできない。対象者の自由はEU機関の管轄に属するものであり、移民や刑事司法の側面がヨーロッパ司法裁判所の管轄下に置かれて以来、EU法に従うものである。

51.さらに、加盟国はEU法に従って、多くの場合、移民や亡命や刑事訴訟における国境を越えた協力の分野で、人を逮捕・拘禁することもできる。欧州逮捕令状に基づく国内手続きは、必然的に憲章とその権利に関わることになる。

52.自由権は絶対的なものではなく、同条の大部分は、人の自由を合法的に制限することができる条件のリストに充てられている。これらの許容される拘禁の形態は、その正当性の根拠を、審査が可能であることにおいている。したがって、独立した裁判所または法廷によって、拘禁の合法性が定期的に精査されなければならない。このリストは網羅的なものであること、すなわち、人身の自由に対する権利に対する他の許容される逸脱は存在しないことに留意することが重要である。

53.第5条の最初の部分は、人が身体的自由を奪われるすべての状況を規定している。これは、国外退去を目的とした2時間未満の拘禁(X & Y v Sweden Application No.00007376/76 )から、精神病院の開放病棟における患者の拘束(Ashingdane v United Kingdom (1985) 7 EHRR 528 )まで、また犯罪による逮捕を伴うより明白な状況も含む。

54.第5条1項(d)〜(f)のうち、裁判所の命令を伴わない、行政的拘禁を扱う部分は、個人が第5条4項に基づいてその拘禁の合法性を検討する権利を有することをより重要なものとしている。

55.しかし、ヨーロッパ人権裁判所は、第5条1項(f)は、(a)〜(e)で認められている拘禁とは異なり、締約国で拘禁されている者の退去強制や身柄引き渡しを確保するためにあるいは不法入国を防止するために、拘禁が「必要」または「比例的である」とされてはならないと判示している(Chahal v. United Kingdom (1997))。裁判所は、自国の国境を管理し、外国人に自国民と同じ自由に対する一般的権利を拒否するという主権的権利を尊重することで、締約国から見た自己の正当性を保持する必要がある(Saadi v. United Kingdom 2008)。

56.「人身の自由と保護」についての言及は、逮捕が恣意的であってはならないことを意味する。個人は、政府による説明のない不法な行動から「保護」されなければならない。Bozano v France (1986) 9 EHRR 297.

57.第5条4項に基づく拘禁審査権は、テロ容疑者に関する情報が本人にも弁護士にも開示されない、いわゆる「閉ざされた」手続を英国政府が採用したことによって侵害されないとされた。特別弁護人は、非公開の審理において、被拘禁者に代わって弁論を行うことで、完全な情報開示の欠如と公開の敵対関係の欠如を相殺するという「重要な役割」を果たしたとされた。同じ事件(A v. United Kingdom (2009) No. 3455/05)において、ヨーロッパ司法裁判所大法廷は、一部の申請者について、非公開の資料の中に決定的な証拠が含まれており、申請者がそれに異議を唱える機会がなかった場合、非公開の手続きは公正なものではないと判断した。

ヨーロッパ人権条約5条に関連する現実的なリスク

ダイヨーカンゴク

保釈がないこと

58.第5条の規定と上述の判例を考慮すれば、第5条違反のリスクがあることは明白である。日本の回答は、この問題を十分に取り扱わず、公式のように日本の現行法を繰り返し唱えるだけである。ここで求められているのは、身柄引渡しを認めるためには、人権条約が許容する実務に適合する基準が適用されるということである。もしも必要があるならば、法律又は実務あるいはその双方を変更しなければならない。

ヨーロッパ人権条約6条に関連する現実的なリスク

59.問題は、被告人が引き渡された場合、あからさまに正義を拒否される現実的なリスクにさらされるかどうかである。そうした現実的なリスクを示す証拠を提出する責任は被告人にある。そして、そうした証拠が提出されたときには、その点に関するいかなる疑問をも解消する責任が政府にある。この責任は非常に高度のものである(see Soering and Othman Supra)。

ダイヨーカンゴク

正義のあからさまな否定

60.当裁判所は、(人権条約3条違反に加えて)警察の「弁解録取の機会」や取調べ中に弁護士へのアクセスが認められないことは、人権条約6条のあからさまな違反であると判断した。当裁判所による保証の要請が 日本によって拒否されたことは、したがって、第6条にも違反する。

61.犯罪の訴追に対する効果的な弁護は、起訴や公判の時点で始まるのではない。それは警察や捜査官との最初の接触のときに始まるのであり、とりわけ、取調べの際にそれは必要である。自白が不適切に獲得されたり、不当な扱いを受けるリスクがあるからであり、黙秘権や自己負罪拒否の権利などについて助言を得ることなどを含め、これらはすべて、司法機能の過誤を防止するために必須の安全装置なのである。

62.これらは、ヨーロッパ人権条約6条と英国内における1984年警察刑事証拠法(PACE1984)の両方の推進力となっていることは注目に値する。非常に限定され注意深く管理された状況を除いては、取調べ中に法的助言を受けることができることは、第6条を遵守するために不可欠である(本件では、あらゆる場合にこれが否定されているのである)。

強制された証拠を公判で使用すること

63.私はさらに、チャペル氏は、警察拘禁中に得られた自白の任意性が意味のある方法で検証されない裁判を受ける「現実的なリスク」にさらされていると判断し、意味のある「自白の信頼性を精査し、適切であれば、それが真実でないか、抑圧的な手段によって確保されたものであると結論づけ、無罪か有罪かを決定する際に、そのことを適切に考慮するための......規定」の存在について保証を求めた。

64.日本の回答は、日本の法律が自白の任意性を判断するための適切な「法的枠組み」を提供しているとの立場を、ここでも繰り返した(回答書第III節)。

65.彼らは、誤判の多発と99.3%の有罪率――それらはいずれも別の方向性を示している――にもかかわらず、現実の問題を否定しているように見える。結局のところ、公判裁判所は不適切に入手された自白を除外することができるという法律に言及するだけでは、実際の実務の証拠に対する答えにはまったくならないのである。

二重の危険

66.「二重の危険の禁止に対する認識可能な制度がない」裁判を受ける「現実的なリスク」があるという私の判断に関して、日本の回答には、無罪判決に対する検察の無制限の上訴からチャペル氏が免責されるという保証は含まれていない。

ヨーロッパ人権条約4条[訳者注4]に関連する現実的なリスク

法的枠組み

第4条

67.条約第 4 条は、条約第 2 条および第 3 条とともに、民主主義社会の基本的価値の 1 つを謳うものである(Siliadin v. France, § 112; Stummer v. Austria [GC], § 116)。

68.条約第4条第1項は、「何人も、奴隷又は隷属状態に置かれてはならない」と定めている。条約の実体的条項の大部分とは異なり、第 4 条第 1 項は例外を規定しておらず、第 15 条第 2 項に基づき、国民の生命を脅かす公共緊急事態の場合であっても、この条項からの逸脱は許されない(C.N. v. the United Kingdom, § 65; Stummer v. Austria [GC], § 116)。

69.条約第4条第2項は強制労働を禁止している(同上)。第 4 条の「強制又は強制労働」の概念は、事案の特定の状況において、それが特定の人身売買の状況 に関連しているか否かにかかわらず、深刻な搾取の事例から保護することを目的としている(Zoletic and Others v. Azerbaijan, § 148)。そのような行為はすべて、第 4 条の「奴隷」または「隷属」と評価される要素を有しているかも しれないし、条約の別の規定の下で問題を提起するかもしれない(S.M. v. Croatia [GC], §§ 300 and 303)。

70.条約第 4 条第3項は、第 2 項によって保障される権利の行使を「制限」することを意図しているのではなく、 その権利の内容そのものを「限定」することを意図しているのであり、第 2 項と一体となって、「強制労働」 という用語に含まれないものを示しているのである(ibid., §120)。

71.第4条は「民主主義社会の基本的価値の一つを謳う」ものであり、変更不可能である(Meier v Switzerland (2016) 10109/14 at §62)。

72.刑事施設に関する限り、第 4 条第3項(a)は「この条約第 5 条の規定に従って課される通常の拘禁の過程において行われることが要求される作業」のみを除外する。第 4 条第3項(a)(通常の拘禁の過程における作業)は、第 2 項によって保障される権利の行使を「制限」することを意図したものではなく、その権利の内容そのものを「限定」することを意図したものである(ibid §65)。したがって、比例原則による制限の問題や、利益衡量の問題は存在しない。

有罪判決後の拘禁

73.「刑期中、作業所勤務が強制され、一般的に受刑者は月曜日から金曜日まで1日8時間働く」ということが、人権条約4条に違反する現実的なリスクをもたらすという私の判断について、私は、チャペル氏のケースについては、「労働は......自発的に行われる」という保証を行なう機会を日本に提供した。

74. 日本は、チャペル氏が刑期中、月曜日から金曜日まで「1日8時間」、「溶接[または]機械サービス[または]機械操作」などを行う「労働の義務」があることを再確認した。

違反に対する処罰

75.日本の回答は、チャペル氏も他の受刑者と同様、「労働を拒否」すれば「懲罰の対象」になるというものだ。

労働の遂行方法

76.裁判所は、チャペル氏のケースについて、(自主的な)仕事中、「行進する、まっすぐ前だけを見る、制限された会話だけをするといった抑圧的な規制をしないこと」を保証する機会を日本に与えた。

77.日本は、チャペル氏が「行進しなければならない」可能性があること、「仕事から目を離したり、おしゃべりをすることを禁止」され、違反した場合は懲罰の苦痛を受けること再確認した。

公平な報酬

78.「受刑者が工場労働の見返りとして意味のあるものを何も受け取っていない」ことについて、日本は、チャペル氏の特定のケースについて、「労働には意味があり、報酬は公平である」ことを保証するよう求められた。

79.彼は27カ月働くごとに平均79,920円(現在の為替レートで464ポンド)の報酬が期待できると日本は答えた。これは1日あたり1ポンド(つまり1時間あたり約10ペンス)にも満たない。刑期は少なくとも6年間は続く。

80.各懸念に対する個別的な回答も、累積的な回答も、被申立人を「国際的に認められたいかなる基準(とりわけ、人権条約4条の保証)にも適合しているとは考えられない日本の強制労働システム」に晒すことはないという約束とはならないというのが、私の明確な見解である。

全体に関連する事項

モニタリング

81.最後に、私は「拘禁条件の効果的なモニタリングが実施される」ことの保証を求めた。

82.回答は、英国領事館に通知すると述べているが、そのような約束が監視の仕組みと言えるのか疑問である。大使館職員は、その任務を遂行するための専門知識、訓練、基本的な知識を有していない(see e.g.,Nizomkhon Dzhurayev v Russia (2013) App 31890/11 at §133-135)。

83.日本は刑務所面会委員会の立場を繰り返すが、これが不十分で独立性を欠いているという私の所見に対する応答はなく、独立性や有効性の欠如に関する救済措置も提供されていない。

84.刑務所内の苦情処理メカニズムに関する法律に関する日本の証拠もまた、提起された懸念に対処するものでもなく、懸念を解消するものではない。

結論

85.引渡しがチャペル氏をヨーロッパ人権条約第3条、第4条、第5条、第6条に対する違反をもたらす「現実のリスク」があると私が認定したことは、これらのリスクのそれぞれについて「現実のリスクの存在を軽減する」責任を日本が負うということを意味する(Aranyosi para.103)。

86.オスマン基準の各項目を順番に見ていくと、裁判所に示された回答は、私の見解では、曖昧で一般的なものであり、私がチャペル氏のケースで指摘したリスクに対する個別具体的保証とは言えない。回答は、日本を拘束できる人物によって提供されたものであることは明らかである。地方自治体がそれに従わないと疑う理由はない。

87.保証は、日本では合法とされるが人権条約締約国では行われていない処遇への懸念を示すものである。日本は国連基本権宣言にもヨーロッパ人権条約にも加盟しておらず、英国は日本と身柄引渡条約を結んでいない。英国は日本との間に長く強固な相互関係をきづいてきたことは明らかであるが、本件が最初の身柄引渡し要請であるために、同様の保証を履行してきたという受入国の記録を評価することができない。これが最初の要請であるという事実は、また、保証の遵守に関するいかなる歴史を評価することも、また、保証(それが仮に保証に値するとして)が、外交的またはその他の監視メカニズムを通じて客観的に検証するための情報を提供しているかどうかを評価することもできないということでもある。

88.証拠と私の所見は明らかである。日本は、システムを監視するための国際的な基準に適合するシステムをもっていない。日本は、効果的な監視を十分に保証するという反証を提出しなかった。最後に、被申立人は受入国に不適切な取り扱いをうけたことはない。彼は受入国で拘禁されたこともない。

89.日本はその反証責任を果たしていない。

90.サマーズ勅撰弁護士は、GS対ハンガリー(GS v Hungary [2016] 4 WLR 33)におけるバーネット控訴院判事(当時)のコメント(see para 20)を引用した。そのコメントはここでも適切なものである。
「問題は、何が約束されたか、誰によって約束されたかを、『問題の政府におけるすべての実際の状況に照らして』、検討しなければならないのであり、そうすることで、『約束が守られるという確信があるかどうか』を決定することである。」

91.求められるのは、「保証」が、裁判所が認定した事実固有のリスクに対応する、事実固有の「約束」であることである。

92.そのため、申立人政府には、この裁判所の認定を受け入れ、被申立人をそのようなリスクから守る約束をする責任がある。

93.日本の証人に対しては、それぞれ、そのような約束を証拠として提出する機会が与えられたということを忘れてはならない。彼らはそれを明確に拒否した。当裁判所は、当初は反対の立場を取っていたにもかかわらず、「保証」を求めるべきであると説得され、国際礼譲の原則を適用して日本にその機会を与えた。

94.これまでに提出された文書には、そのような約束はない。それは、実務が必ずしも法に適合していないことを受け入れず、被申立人がそのような実務に直面しないことを「約束」もしない。そして、日本の法を繰り返し唱えるだけである。しかし、それは当裁判所がアランヨシによる審査のために求めているものではない。

95.回答そして裁判所の質問に回答した担当者は、法と実務が必要な安全装置を十分に提供するものであり、要請国の基準に沿うものであると信じて、善意でそのような回答をしたことについて私は疑わない。しかし、当裁判所は、国際的な基準に照らして評価しなければならないのであり、また評価してきた。この点で、日本は基準を満たしていない。

96.私は、日本の保証は、ヨーロッパ人権条約3条、4条、5条および6条違反のリスクを克服するには不十分であり、したがって、2003年身柄引渡法87項(2)に基づき(そしてさらに同法84項に基づき。第1の判決を参照)被申立人を免責するべきであると判断する。

命令

97.前述のように、これは本件における第3の判決であり、それらは身柄引渡請求事件に関する当裁判所の判断として一体のものとして読まれるべきである。第1判決において、私は申立人政府は被申立人に対する一応の証明を示すことができていないと判断し、すべての異議が処理された後に、チャペル氏を免責することを示唆した。したがって、私は2003年身柄引渡法84項(5)[訳者注5]および同法87項(2)[訳者注6]に従い、チャペル氏を免責する。日本政府は14日以内に上訴する権利を有する。

ポール・ゴールドスプリング
イングランド・ウェールズ上級地方判事(首席判事)
2023年8月11日

訳者注1:アランヨシ判決 欧州司法裁判所大法廷が2016年4月5日に下した判決 JUDGMENT OF 5. 4. 2016 — JOINED CASES C-404/15 AND C-659/15 PPU ARANYOSI AND CĂLDĂRARU, ECLI:EU:C:2016:198 EU所属国の裁判所が発行した逮捕状(European Arrest Warrant)の執行を求められた別の所属国は、発行国に被告人の身柄を引き渡すと、ヨーロッパ人権条約に違反する現実的なリスクがあると判断されるときに、人権侵害が行われないという「保証」を求めることができ、その保証が確実ではないと判断したときには、逮捕状の執行を延期し、合理的な期間内に保証の実行ができないと判断したときには、逮捕状の執行自体を拒否することができるとした。https://eclan.eu/files/attachments/.2121/CL_Aranyosi_and_Caldararu_2016.pdf

訳者注2:ヨーロッパ人権条約第3条(拷問の禁止)「何人も、拷問または非人道的なもしくは品位を傷つける取扱いもしくは刑罰を受けない。」

訳者注3:ヨーロッパ人権条約第6条(公正な裁判を受ける権利)第3項「刑事上の罪に問われているすべての者は、少なくとも次の権利を有する。
***
(c) 自らまたは自己が選任する弁護人を通じて、防御すること。弁護人に対する十分な支払手段を有しないときは、司法の利益のために必要な場合には無料で弁護人を付されること。」

訳者注4:ヨーロッパ人権条約第4条(奴隷の状態および強制労働の禁止)
1 何人も、奴隷の状態または隷属状態に置かれない。
2 何人も、強制労働に服することを要求されない。
3 この条の適用上、「強制労働」には、次のものを含まない。
(a) この条約の第5条の規定に基づく拘禁の通常の過程またはその拘禁を条件付きで解かれているときに要求される作業
(b) 軍事的性質の役務、または、良心的兵役拒否が認められている国における良心的兵役拒否者の場合に義務的軍事役務のかわりに要求される役務
(c) 社会の存立または福祉を脅かす緊急事態または災害の場合に要求される役務
(d) 市民としての通常の義務とされる作業または役務

訳者注5:2003年身柄引渡法84項(5)「事件の証拠が被申立人に答弁を求めるのに十分かどうか」について、「否定的な判断をしたときは、裁判官はその者の免責を命じなければならない。」

訳者注6:2003年身柄引渡法87項(2):「その者の身柄引渡が、1998年人権法(42項)の意味で人権条約上の権利に適合するかどうか」について、「否定的な判断をしたときは、裁判官はその者の免責を命じなければならない。」




plltakano at 19:56コメント(7)身体拘束 | 国際人権法  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by 五十嵐二葉です   2023年08月18日 14:50
5 高野先生
すばらしい・ホントにありがとうございます
日弁連 国司人権問題 条約wg 接見交通に
以下のように流しました。
ほんと、ほんとに感謝です。
みなさま
五十嵐です
高野隆さんが
、英国ウェストミンスター マジストレイト裁判所の日本対チャペル判決の翻訳をブログに載せてくれています。
 http://blog.livedoor.jp/plltakano/archives/65996636.html
日本という国の人権・法・国際的振る舞いについて、的確に述べられていて、ほんとうにその通りと腑に落ちます。
日本政府は、自由権規約政府報告書の第2回を、憲法と刑訴法などの条文だけならべて出しました。それも刑訴法39条3項のよなうな明確な人権法違反の条文は隠して。
この姿勢が国際的にどう見られているかを知る最高の資料です。
 接見についても多くの記述があります。
 ぜひご覧になってください。
2. Posted by 高野隆   2023年08月18日 15:30
五十嵐さん
コメントありがとうございます。急いでやりましたので、間違いや読みにくいところがあると思います。注の追加も含めて直して行きたいと思います。
3. Posted by 一読者   2023年08月19日 13:17
どこの独裁政権下の全体主義国家の話かと思ったら日本のことなのですね…。
思ったのは日本側が法や規則を盾に人権侵害を行なっていないと主張できるなら、チャペル氏側も日本の法律を盾に違法行為を行なっていないことを主張できるのではないかと。ルールで禁止されていることはできないんですよね?
4. Posted by 正論   2023年08月20日 18:54
引き渡しの条約がないだけでしょ
5. Posted by 留置番号「●●」   2023年12月02日 17:53
私が茨城県警察つくば中央警察署の代用監獄に留置されていた時は、私の個人的な日記を二人組の留置担当官が無断で盗み読みしていました。定刻の後は被留置人のノートなどの私物を監視台に預けておく決まりになっていましたので、彼らにとっては読み放題だったわけです。それだけではなく、彼らはにやにや笑いながら小声で私の日記の文面を音読し、楽しんでいました。私の留置室は監視台の真ん前でしたから、小声でもよく聞こえました。

当時、留置場の中で回覧されていた読売新聞の記事がでかでかと黒塗りにされていたことがあります。「これはよほどの大物がうちの留置場に入ってきたのだろう」と被留置人たちは噂しましたが、後で判明したところによると、それは袴田事件の再審開始決定の記事でした。被留置人が影響されて無罪主張に転じたらまずいと警察署は判断したのでしょう。

取調室への被疑者ノートの持参を検事から一方的に拒否されたこともあります。この検事は、のちに東京法務局訟務部付になった山嵜仁です。

留置場での人権侵害をNPO法人「監獄人権センター」に告発したところ「うちは代用監獄の問題は扱っていない」と不可解な説明を受けたこともあります。代用監獄の問題は監獄の人権問題の一丁目一番地なので、同センターで扱っていないわけがありません。そう思って調べてみたら、案の定、上記の説明は虚偽でした。なぜ虚偽の説明をされたのか明確な理由は不明です。私の事件の被害者は間接的に同センターと繋がりのある政治団体の関係者でしたが、そのせいかどうかは知る由もありません。

このように、警察だけではなくNPO側にも問題があります。
6. Posted by 留置番号「●●」   2023年12月02日 17:59
茨城県警察つくば中央警察署の代用監獄の古顔によると、昔は「運動」と称して警察官が被留置人を警察署内の道場に連行し、柔道の技をかけて痛めつけることも行われていたそうです。

むろん特別公務員暴行陵虐罪ですが、このようなことをする警察官が訴えられたという話は聞いたことがありません。この程度のことは、監獄における人権侵害の中ではほんの氷山の一角です。
7. Posted by 留置番号「●●」   2023年12月02日 18:12
警察署の医療も全くお粗末な代物。最低限の水準に達していません。私は代用監獄の同房者から「あなた、睡眠中ときどき呼吸が止まっていますよ」と指摘されたので、獄医にそのことを申し出ました。しかし獄医は死んだ魚のような眼で無関心に「大きな問題はない」の一言。

保釈された後、私は総合病院の呼吸器科の外来に行きました。検査の結果、医師も驚くほど重度の睡眠時無呼吸症候群であることが判明。「いつ死んでもおかしくない」と言われ、呼吸器の手術を受けて一命を取り留めました。つまり「大きな問題はない」という獄医の説明は虚偽だったわけです。

私はたまたま死にませんでしたが、被留置人の健康状態によっては、逮捕留置が事実上の死刑執行になることもありうるでしょう。これが日本の刑事司法における「無罪推定」の実態です。

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