2021年10月01日

「裁判所の電気」使用禁止処分

 9月27日横浜地方裁判所で進行中の公判前整理手続において、裁判長から、法廷内の電源は「国の電気」なので使用してはならないとの命令を受けました。これまでどの裁判所でも、弁護人席に設置された電源タップにノートパソコンをつないで、メモをとったり資料を点検したり、パワーポイントを操作したりしてきました。実際、この出来事の直前まで横浜地裁の別の法廷で行われていた公判前整理手続でも弁護人席の電源を使用してパソコンを操作していました。今回の裁判長の処分は弁護人に不合理な不便を強いるものであり、刑事被告人が弁護人の援助を受ける権利を侵害すると思います。その旨異議申し立てをしましたが棄却されたので、9月30日付けで東京高裁に抗告を申し立てました。その全文は以下のとおりです。

抗告申立書


 本件の公判裁判所である横浜地方裁判所第3刑事部裁判長裁判官景山太郎が2021年9月27日に弁護人らに対してなした「裁判所の電気を使用してはならない」と命じた処分に対する異議申し立てを棄却した同裁判所の決定に対して抗告を申し立てる。原決定を取消し、景山裁判長の処分を取消したうえ、本件弁護活動のために必要な限り裁判所内で電気を使用することを認めるとの決定を求める。

抗告理由

1 裁判長による法廷での電気使用を禁じる処分
 2021年9月27日午後1時30分横浜地方裁判所403号法廷において、裁判長景山太郎、裁判官鈴木新星を受命裁判官として、公判前整理手続期日が開かれた。期日開始が宣せされる直前に裁判長は、次のように述べて、弁護人らが法廷内の電源コンセントにノートパソコンを繋ぐなどして裁判所が管理する電気を使用することを禁じる命令を出した――「皆さんだけに電気の使用を許すわけにはいかないので。国の電気ですから、私的とか、仕事上かもしれないけど、自前の電気でやってください。そのように各地の裁判所でもしています。公判前整理手続で電気を使うのは筋違いだと思います。」

 弁護人は、この命令が裁判長の訴訟指揮による処分であることを裁判長自身に確認した上で、この処分が刑事被告人の弁護人の援助を受ける権利(憲法37条3項)を侵害する違憲違法な処分であるとして、異議を申し立てた。裁判所(受命裁判官たる景山裁判長と鈴木裁判官)は合議のうえで、弁護人の異議申し立てを棄却すると決定した。

2 弁護人の援助を受ける権利の侵害
 現代社会において、パソコンの利用は、効果的な弁護活動を行う上で必要不可欠である。現代の弁護人は、法廷において、パソコンを使用して、メモを取り、訴訟書類や証拠を点検し、そして、事実認定者に証拠を提示したり、冒頭陳述や最終弁論の際にビジュアル・エイドを活用するのである。こうした活動は、狭い意味での公判期日においてだけ必要というわけではない。充実した公判を連続的に行うための準備として行われる公判前整理手続においても、パソコンを用いた弁護活動――典型的にはメモをとったり、訴訟記録や証拠を点検するなどの活動であるが、それに限られるわけではない――は必要不可欠である。

 要するに、現代においては、弁護士がその職責を十分に果たすためには、裁判所においてパソコンを使用する必要があるのであり、そのために電源の供給を受けることは弁護活動の必須の条件なのである。そして、こうした弁護活動を補助するために、現在の法廷の当事者席にはパソコンに接続するためのモニターケーブルが設置され、電源を供給するために電源タップが備えられているのである。司法の一翼を担う弁護活動を効果的・効率的に行えるように、裁判所も税金を投入してこうした設備を弁護人に提供しているのである。

 法廷における弁護人席への電源の供給は、裁判所が「恩恵」として弁護人に授けているのではない。憲法が保障する弁護人の援助を受ける権利(憲法37条3項)を実効的に確保するためには、こうしたインフラの整備は不可欠なのである。そして、それは司法が適正に運営され市民の信頼を得るためにも不可欠な要素なのである。弁護人が法廷でパソコンを使えず、紙とペンでメモを取らなければならず、証拠や資料の検索もできず、プレゼン・ソフトも使えない、そのような不便を強いる裁判はもはや国民の信頼を得られないのである。

 わが国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約14条3項(b)は、すべての刑事被告人に「防御の準備のために十分な[…]便益」(adequate [...]facilities for the preparation of his defence)が保障されなければならないと定めている。この規定はヨーロッパ人権条約(European Convention on Human Rights)6条3項(b)を引き継ぐものである。ヨーロッパ人権裁判所の判例によれば、同項は、被告人が防御活動に集中できるような環境を確保することをも要請しているのである(Razvozzhayev v. Russia and Ukraine and Udaltsov v. Russia, Judgment, 19 November 2019, No. 75734/12)。そして、この保障は被告人だけではなく、その弁護人にも及ぶのである(Manfred Nowak, CCPR Commentary, 2nd rev’d ed., 2005, p332)。ノートパソコンの電源が切れるのを気にしながら、法廷活動をしなければならないのでは、弁護人は落ち着いて手続に集中できない。弁護人席に電源タップがあるにもかかわらず、弁護人をそうした状況に追い込むというのは、不必要で理不尽で不合理な制約である。ほとんど嫌がらせ、いじめというべきである。

 法廷での電気の使用を禁じる景山裁判長の処分は、弁護活動の機能を奪い、効果的な弁護を受けるという被告人の権利を侵害するものである。それは日本国憲法に違反し、国際条約にも違反する。

3 弁護人の役割の否定
 景山裁判長は、裁判所の法廷における弁護活動は「私的」なものであるから、そのために政府の機関である裁判所の資源――「国の電気」――を使うことは許されないという。しかし、これは官尊民卑思想と弁護人の役割に対する無理解に基づくものというほかない。

 われわれは法廷で綿菓子を売っているわけではない。われわれは法廷で刑事訴追を受けた人の弁護活動をしているのである。われわれは個人である被告人の権利と利益を擁護することを通じて、国家の中核的機能の一つである刑事司法を担っているのである。われわれの仕事は、個人の基本的人権を擁護することを通じて社会正義を実現することである(弁護士法1条、弁護士職務基本規程1条、46条)。

 第8回国連犯罪防止会議(1990年)で採択された「弁護士の役割に関する基本原則」は、弁護士を「司法運営における必須の代理人」(“essential agents of administration of justice”)と呼んだ(原則12)。そして、政府は「弁護士への効果的で平等なアクセスのために効果的が手続と即応的なメカニズムを確立しなければならない」と要請している(原則2)。また、アメリカ法曹協会(American Bar Association)による「刑事弁護の機能に関する刑事司法の水準」(第4版、2017年)4.1-2は、刑事弁護人の機能と義務に関して、「刑事弁護人は刑事司法の運営に必要不可欠である。刑事事件を審理するために適切に構成された裁判所は、裁判所(裁判官、陪審員、その他の裁判所職員を含む)、検察側法律家、そして弁護人で構成される実体と見なすべきである。」と定め、弁護人が事件を審理する裁判所の一員(officer of the court)とみなされるべきことを定めている。わが国における刑事弁護人の役割もまさに、これらの国際的な準則が定めるものと同等のものであるべきである。

 景山裁判長の処分そしてそれを受け入れた原決定は、刑事弁護人のこうした公共的役割を理解せず、弁護人の弁護活動を「私的」なものと決めつけて憚らない。およそ的外れで時代錯誤的な思い込みに基づくものと言う他ない。

4 結論
 景山太郎裁判長の処分とそれを是認した原決定は、司法の一翼を担う刑事弁護人の活動に不条理で時代錯誤的で不合理な制約を科するものである。われわれはこれまで多年にわたって法廷の弁護人席の電源を使用してきた。景山裁判長の処分が是認されるならば、こうした良き実務慣行が否定され、全国の弁護士は法廷に発電機やバッテリーを私的に持ち運ばなければ満足な弁護活動ができないということになってしまうだろう。この国の刑事司法は日本国民からもそして全世界からも信頼されなくなるだろう。日本で刑事訴追を受ける被告人だけ、19世紀と同じ条件と設備で人生のかかった裁判を受けなければならないのか。それとも、刑事訴追を受ける個人は不必要な制限なしに資格のある弁護士によって十分な援助を受けられるのか。いずれが文明国にふさわしい対応なのか。
以上



plltakano at 10:35コメント(30)刑事裁判 | 刑事弁護全般  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by とある国の主権者   2021年10月02日 05:54
5 被告人席・弁護人席の照明、冷暖房、座席も国有財産なので使用禁止になり、最終的には法廷に立つ権利も国の財産なので。という理由で妨げられ、近い将来すべて自動的な略式裁判で検察と判事のみで判決が出るようになる。どこぞの民主主義人民共和国に倣い、我が国もスピーディな刑事裁判手続きが始まるというわけだ。
2. Posted by nsdap   2021年10月02日 11:25
新型コロナ茶番劇も暴かれてきましたね。
3. Posted by 後進国化する日本国   2021年10月02日 13:07
日本の司法は中世。
ベラルーシみたいな国になる。
4. Posted by 新海カスコ   2021年10月02日 19:07
裁判官のヒラメ化は嘆かわしい限りです。
地方の裁判官も違法捜査に対する国賠訴訟で、捜査報告書の根幹部分(同意していないのに同意があったやりとりを創作して記載)の虚偽記載を事実認定しながら違法にならないように独自にストーリーを組み立てるヒラメ裁判官がいます。
新海寿加子らヒラメ裁判官は辞職し、札幌高裁は正しい判決を!!http://chng.it/9sPqwMNz
5. Posted by     2021年10月04日 13:20
メモ用紙が足りないときでも、裁判所がメモ用紙をくれることは無いと思います。
ポールペンのインクもしかり。

パソコンの電池が切れそうなときは、裁判所が当然に電気をくれなきゃいけないのですか?
6. Posted by 5へ   2021年10月05日 15:36
5 コンセントは、裁判所の設備の一部
検察官や弁護人が使うことを前提で設置されている
照明、椅子、モニター、マイクなどと同じ部類

弁護人は「PCをくれ」とは言っていない
「メモやインクをくれ」というのは、「PCをくれ、PCのソフトをくれ」というのと同じようなもの

メモ、インクと、コンセント使用は全然違う

実際、書記官によっては、メモくらいくれそうですが笑
インクはあれですが、ペンは貸してくれるでしょ笑
7. Posted by ピカチュウ   2021年10月05日 15:57
ノートパソコンの電気料金なんて安いのでは?
それが仮に高くてもパソコン利用を認めるのとセットで電源利用を認めても誰も困らないのでは?
ノートパソコンの電気料金なんて
1日で10円とかそんなもんですよ
期日ってそんなに長いんですか
期日でノートパソコンの電源を利用しても電気料金は1円くらいなのでは?
裁判所ってそんなにケチなんですかね?
8. Posted by 遠山金四郎   2021年10月05日 19:33
5 人権擁護や社会正義のあり方を無視したうえ、楽に早く裁判を終らせようとして、意図的に弁護士対して証拠の提出を邪魔する裁判官が増えている事を証明するような処分と決定だと感じました。
誰もが正当な裁判を受けられるよう、どうか頑張って戦ってくださいませ。

9. Posted by el   2021年10月06日 04:13
>景山太郎裁判長の処分とそれを是認した原決定は、司法の一翼を担う刑事弁護人の活動に不条理で時代錯誤的で不合理な制約を科するものである。

そうは思わない。電気も国民の税金で賄われている。使用できないというのは問題だが、使用に見合った使用料を払うべきだ。微々たるものだと思うが。無料で使用できると思うのは弁護士の傲慢だ。
10. Posted by 6へ   2021年10月06日 12:10
>コンセントは、裁判所の設備の一部
検察官や弁護人が使うことを前提で設置されている

なんか難しい話みたいで困るんですけど、コンセントって裁判員にパワポとかを見せる用じゃないんですか。
紙とペンの代わりだけなら、充電が残ってるならコンセントを使わなくていい気もするのですが。

いくらお得意様でも当然のように毎回コンセントを挿されてたら、ちょっとないわーってなるでしょ。


電源が切れそうな時は応相談でいいかもと思いますよ。
11. Posted by へいへい   2021年10月06日 12:10
elさんは公共施設に用があっていったときに
ちゃんと電気と水道の料金を払ってるですね。
頭が下がります。

http://www.tosyokan-navi.com/list_c_p/all/ure_dengen.html

今時公立図書館でもコンセント利用は可なんですよね。
elさんはこういう図書館でも電気料金を払ってくださいね。
12. Posted by 10へ   2021年10月06日 12:21
5 おそらく弁護士ではない方でしょうが、この記事を読んで勉強してみてください

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6406223

13. Posted by 12へ   2021年10月06日 13:42
ありがとうございます。
偉い裁判官と偉い弁護士の戦いを見守りたいと思います。
14. Posted by 13へ   2021年10月06日 14:40
偉いとか偉くないとかは関係ありません

この問題は弁護人の職責、刑事裁判所の在り方、裁判官の職責等の根幹に関わる重要な問題だと思います
それがコンセント使用という論点で顕在化したのです

弁護人は防御権を憲法上の重要な権利と捉えている
当該裁判官は(深層心理として)防御権を軽んじている
だから平気でコンセント使用を禁止できたのでしょう

当該裁判官の論理を貫くと、刑事裁判は裁判所の設備を使って行われるのですから、弁護人が裁判所の設備を使って行うあらゆる活動に対し、裁判官は弁護人の活動を制限することが可能となります
これでは防御権が保障されているとはいえません

裁判所には弁護人の防御権への理解が求められます
記事にコメント寄せている元裁判官らは、弁護人の防御権の重要性を理解しています


15. Posted by 七生報国   2021年10月06日 15:24
役所にプレゼンに行くときは自前の発電機と簡易トイレを持ち込まねばならぬとはとんでもない時代になったものだ
16. Posted by てん   2021年10月06日 19:01
電気裁判として歴史に残りそう
17. Posted by いじわるさん   2021年10月06日 21:26
意地悪ですが停電になったら被告を弁護できない?
法の色んな面を使って被告の権利を守ろうとするならそれを使って被告の罪を裁こうとするのも裁判官でそういう面もあるのが裁判なのでは?
裁判テクニックで時間稼ぎ的な事をすれば裁判自体の重みを下げてしまうと思います
18. Posted by ?   2021年10月06日 23:15
法廷は基本的に窓がない
よって、停電になったら真っ暗で裁判なんてできないよ
19. Posted by 研鑚を積もう   2021年10月06日 23:29
5 わざわざここにブログ主を批判しにくる人は日頃満たされていないのでしょうね
嫉妬しているのでしょうか
人の足を引っ張っても意味がないですね
まさに不毛です
20. Posted by 現場猫   2021年10月07日 18:45
これ、使ってたのはノートパソコンだけですか?プリンターは使用していませんでしたか?
21. Posted by 21   2021年10月07日 23:43
公判前整理手続ではプリンターは使わないのではないでしょうか
記事によると公判で証人に書類を示す際にプリンターを使うこともあるようですが、公判前整理手続に証人はいませんので
22. Posted by ツナ   2021年10月08日 08:34
弁護人らが法廷内の電源コンセントにノートパソコンを繋ぐなどして裁判所が管理する電気を使用することを禁じる命令を出した

弁護人は、この命令が裁判長の訴訟指揮による処分であることを裁判長自身に確認した上で、この処分が刑事被告人の弁護人の援助を受ける権利(憲法37条3項)を侵害する違憲違法な処分であるとして、異議を申し立てた。
裁判所(受命裁判官たる景山裁判長と鈴木裁判官)は合議のうえで、弁護人の異議申し立てを棄却すると決定した。
23. Posted by    2021年10月08日 11:27
>>1
発想が極端というか、ずれているというか。
馴染みあるだが有り得ない結論に持って行こうとすると思考形式かパターン化する典型でしょうね。
24. Posted by い   2021年10月08日 11:29
>>7
そんなに安いなら自分で用意しなよ。
その辺の子供じゃないんだ。
プロなんだろ?
25. Posted by ずんだ   2021年10月08日 11:31
>>19
まずは鏡を見てみようや
26. Posted by たま   2021年10月08日 11:33
>>8
そんなことはない
27. Posted by 玉手箱   2021年10月08日 11:36
>>11
まったく異なる状況設定で強弁するとね、ああ、所詮この程度に支持されてるのねって、フレンドリーファイヤー、背中撃ちになるんだよ。
28. Posted by 爺   2021年10月08日 16:24
公的意味合いの強さはこれまでに出た例ですと
刑事裁判>役所にプレゼン>公立図書館>商談>カフェ

公立図書館でも認めていることを公的意味合いがより強い刑事裁判所で認めないことが高野先生を刺激したのでしょう



29. Posted by ミュウ   2021年10月08日 16:41
景山太郎裁判官の理論ですと
電源使用を禁止されたら、持参しているモバイルバッテリーを使えと
パソコンのバッテリーとモバイルバッテリーの両方の残量がなければ、パソコンは使うなと
バッテリーを残していない弁護人が悪いと
そういう理論ですね

では弁護人が「〇〇円払うから電源を貸してください」とお願いしたら裁判官は貸してくれたのでしょうか?

答えは、「NO」
「私に電気代を払われても困ります。お断りします。」



30. Posted by 礼儀知らず   2021年10月09日 13:13
公共施設だからって勝手に電気使っていいというルールはない。普通は他人の家に行って勝手にコンセント使ったら、失礼なことだよ。要は礼儀を知らないことが咎められたってこと。いい歳の大人のやることじゃない。

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