2019年09月12日

日産提供PC等に対する証拠保全命令の申立て

 ゴーン氏に対する金融商品取引法違反事件(有価証券報告書への虚偽記載罪)について、日産自動車やその役員らは業務で使用していたPCやHDD、USBメモリーなど多数の電子媒体を東京地検に提出しました。また、東京地検は同様の媒体を多数差し押さえました。そして、検察官はこれらから抽出したという電子データをプリントアウトしてゴーン氏の有罪を示す証拠としてその取調べを請求しています。私ども弁護人は、法律に基づいて東京地検に対してこれらの電子媒体の証拠開示(閲覧及び謄写)を求めました。これに対して東京地検は、「弁護人による閲覧に限る」として謄写(電子データのコピーの交付)を拒否しています。それのみならず、この度、これらの電子データの一部を弁護人が閲覧する前に削除するという暴挙に出るに至りました。検察官によると、日産自動車から「従業員のプライバシー等」に関する部分としておよそ6,000項目の削除要求があり、すでにデータの削除を開始しているとのことです。

 私ども弁護人は、これは被告人の証拠開示の権利を侵害するのみならず、証拠の隠匿・改ざんに等しい暴挙であり、カルロス・ゴーン氏の公正な裁判を受ける権利を著しく侵害するものである考えます。そこで昨日付で、東京地検が押収した合計約100点の電子媒体について、差押え(記録命令付き差押え)を行うように東京地裁に申し立てました。申立書の全文(別紙は省略)は次のとおりです。

請求の趣旨


 別表1及び2記載の電磁的記録媒体(以下「本件電磁的記録媒体」という。)を押収する旨の決定を求める。

請求の理由

1 事件の概要

この事件は、日産自動車の元代表取締役兼最高経営責任者であったゴーン氏が、共謀の上、自らの報酬額を過少に記載した有価証券報告書を提出したとして、金融商品取引法違反に問われている事案である。東京地方裁判所は、2019年2月20、日本件を公判前整理手続に付す旨を決定し、現在、同手続が進行中である。

 本件の捜査において、東京地方検察庁特別捜査部は、日産及びその従業者らから多数の電磁的記録媒体を差し押さえ、又は刑訴法350条の2の合意に基づき任意提出を受けるなどした。そして、その一部が関係者等の取調べにおいて用いられ、その印刷物が供述調書に添付されるなどして、証拠として取調べ請求されている。

2 証明すべき事実
 日産の有価証券報告書にゴーン氏の報酬額が過少記載されたという事実の不存在、ゴーン氏が自らの報酬額を過少記載する旨の指示をしたという事実の不存在、これらに反する各供述者の供述の信用性、その根拠とされる各種資料の真正、成立、作成の経緯、信ぴょう性など。

3 証拠及びその保全の方法
本件電磁的記録媒体につき、記録命令付差押え(179条2項、99条の2)の方法による保全が行われるべきである。

4 証拠保全を必要とする理由
 東京地方裁判所刑事第17部は、2019年2月20日、本件を公判前整理手続に付す旨を決定し、現在、同手続が進行中である。弁護人は、2019年4月10日付け「証拠開示請求書⑴」及び同年6月19日付け「証拠開示請求書⑴補充書」において、類型証拠の開示請求をした。これに対し、検察官は、同年7月19日付け回答書において、別表1記載の電磁的記録媒体のほか書面やファイル等証拠物合計599点を「弁護人による閲覧に限る」という条件の下に開示する旨回答した。

 2019年7月23日の第2回公判前整理手続期日において、日産の弁護人が、証拠開示が進行中の押収品には「本件とは関係しない被告人日産の企業秘密や、個人情報に関するものが多く含まれている」などとして、検察官に「配慮」を求め、これを受けて、検察官は「日産の企業秘密や、同社の役員及び従業員のプライバシーの観点から、開示の検討に時間を要する」と表明した。これに対し、弁護人らは「(本件と)関係がないのであればそもそも押収はされていないはずであり、今まで留置が続けられていることもないはずである。そのような理由で証拠開示の回答が遅れるということは、被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害するものとして、あってはならない」「現時点で閲覧した証拠を見ても、企業秘密やプライバシーに関するものがあるとは考えられない」等と指摘し、裁判長からも「企業秘密に関しては、企業秘密として一括りにしてしまうと、全てがこれに該当してしまうことになりかねない。業務に関連するものについては、8月末までに幅広く開示をしていただきたい」との勧告がなされた(第2回公判前整理手続調書)。

 2019年8月30日付け「証拠一覧表(追加7)」によると、第2回公判前整理手続期日の前後である7月18日から同月26日にかけて、検察官から日産の従業者や元取締役らに対し、複数の証拠が還付されている。

 そして、検察官は、2019年8月30日付け回答書により、合計11点の電磁的記録媒体(別表2記載)を開示する旨回答したが、上記と同様、「弁護人による閲覧に限る」という条件を付した。
これを受けて、弁護人は、2019年9月5日の第3回公判前整理手続期日において、本件電磁的記録媒体の開示について「弁護人による閲覧に限る」ことは、手続の重大な遅延を招くものであり、いったん閲覧を申請するものの、謄写が必要となる見込みである旨を表明し、裁判長からも、検察官に対し、幅広い開示に応じるよう勧告がなされた。

 そして、弁護人は、2019年9月6日、東京地方検察庁特別公判部に対し、本件証拠物につき閲覧申請をし、同月10日に閲覧することとなった。ところが、弁護人は、9月6日、東京地方検察庁特別公判部事務官から、次のような連絡を受けた。

・ 日産から「従業員のプライバシー等に関する電子データは開示しないでもらいたい」旨の申入れを受けた。合わせて、不開示を希望する証拠の「一覧表」が提出された。

・ 日産が不開示を希望する証拠の数は6000件近くに及ぶ。

・ これを受けて、検察庁は、開示対象である電磁的記録媒体のうち、8月30日付け回答書記載の電磁的記録媒体(別表2記載)について、不開示とする部分のデータを削除する作業を進めている。削除すべきデータが膨大であるため、作業に時間を要するため、閲覧が予定されている9月10日には準備が間に合わない可能性がある。(なお、本日9月11日で、別紙2記載の11点の電磁的記録媒体のうち、閲覧に供されているのは4点のみであり、残る7点については、依然として開示とする部分のデータを削除する作業が行われている。)

 東京地方検察庁は、これまで、日産と一体となり、強い協力関係の下で捜査及び訴追を進めてきた。本件は、日産が東京地方検察庁特別捜査部に持ち込んだ事件であり、捜査はそれを契機に開始された。日産の従業員のうち少なくとも2名(大沼敏明氏及びヘマント クマール ナダナサバパシー氏)は、検察官との間で、不起訴処分と引き換えに、自らが保管する一切の資料の提出や供述調書の作成、法廷での証言をはじめとする協力行為をすることを合意したことが明らかとなっている。加えて、日産の代表取締役である西川廣人氏は、検察官の主張を前提とすれば、問題となっている過少記載された有価証券報告書の提出者であり、刑事責任を負うべき立場にあるにもかかわらず、検察官は、西川氏について不起訴処分としている。弁護人は、検察官が西川氏との間で刑訴法350条の2の合意をした事実の有無を明らかにするよう釈明を求めたが(2019年6月11日付け求釈明申立書)、検察官は、合意をした事実はないとも表明せず、回答自体を拒んでいる(第1回公判前整理手続調書)。

 こうした事情の一端をみても、本件では、検察庁が日産と一体となり、捜査、訴追を進めていることが明らかである。今回、検察官が、一法人にすぎない日産の申入れに基づき、事前に弁護人に知らせることもなく、弁護人に開示する電磁的記録媒体から大量のデータを削除しようとしているのも、その表れである。

 紙媒体の墨塗り(マスキング)と異なり、弁護人に開示される電磁的記録媒体からデータが削除された場合、開示を受けた弁護人は、どのようなデータが削除されたか、全く知ることができない。防御上重要なデータが削除されて開示されたとしても、そのようなデータが削除されていること自体が隠蔽されてしまうのであるから、その害悪はきわめて深刻である。

 前記のとおり、検察官は、捜査の過程で押収し、その後も留置し続けていた証拠について、弁護人から証拠開示請求を受けた後に、日産の従業者らに還付をしており、本件電磁的記録媒体(原本)についても、還付する可能性がある。日産は、本件を検察庁に持ち込んだのみならず、ゴーン氏に対する損害賠償請求にも及んでおり、ゴーン氏と利害が鋭く対立する関係にある。日産は、「営業秘密」や「個人情報」を口実にゴーン氏に対する証拠開示の制限を要求しており、日産の従業者らが本件電磁的記録媒体の還付を受けた場合、「営業秘密」や「個人情報」を口実として、その内容が破棄隠匿される蓋然性がある。そのようなことが現実化すれば、公平な裁判を受ける権利は著しく侵害されることになる。

 したがって、本件電磁的記録媒体について、あらかじめ証拠を保全しておかなければ、その証拠を使用することが困難な事情のあることは明らかである。そして、検察官が日産の意向を受けて電磁的記録の削除を行っていることや、本件電磁的記録媒体が還付される可能性があり、日産又はその従業者によってその内容が破棄隠匿される蓋然性があることからすれば、検察官が保管する証拠を保全すべき特段の事情(最高裁平成17年11月25日第二小法廷決定・刑集59巻9号1831頁)が存するというべきである(「証拠を提出者に還付する予定であるが、提出者の下で破棄隠匿される危険性が高い」場合などに、同決定にいう「特段の事情」があると認められることにつき、『最高裁判所判例解説刑事篇(平成17年度)』634頁参照)。
以上








plltakano at 13:50コメント(4)ゴーン事件 | 証拠開示  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by Dr.PS13kai   2019年09月13日 01:51
3 で、閲覧はできたのでしょうか?大阪でのことがあるので、モノではもらえないでしょうね。となれば、検察がやましいことの証左ですね。素人考えですけど、西川さんを弁護側の証人として裁判に呼ぶのは?有報の虚偽記載が忖度によるものと印象付けることで、ゴーンさんを陥れた印象を与えられると思うのですが。となると、主犯は誰?となって司法取引が不成立となる気がします。そして検察の顔をたてて公判を開き、新たな主犯をいつものパターン(罪を認めて情状酌量)で弁護するのはどうでしょう。これで、大阪でのこと込みでチャラ。なんてね。
2. Posted by 萩原猛   2019年09月13日 12:13
酷い話だ!
 東京地検に提出する時はプライバシー侵害がなくて、弁護人に開示する段階になると、プライバシー侵害だと言って一方的に削除。いやはや。
3. Posted by ゆうり   2019年09月13日 13:52
この申し立ての件、まったく報道されていませんね・・。
せめてこれくらいは報道してほしいものです。
・証拠の謄写拒否
・日産が今になって不開示を希望した証拠は6000件
・その不開示部分のデータを、検察官が弁護人が閲覧する前に削除
・西川氏と検察が合意した事実の有無は、否定もせず回答自体を拒んでいる

高野先生や弘中先生、河津先生が弁護人なので、検察も証拠を可能な限り渡したくないのでしょうが、これで公平な裁判が行われるとはとても思えません。何とかならないのでしょうか。
せめて今回の証拠保全が速やかに実行されることを願っています。
4. Posted by 桜木 文夫   2020年02月11日 20:36
2019年の刑事裁判でのブログ投稿初めて触れました。情報偏在を是正する「全面開示」としかメディアが伝えておらず、80年代から具体化した米国でのDiscovery手続きがなんら報道されません。邦字メディアに社会的公器の自覚があるのか不思議でなりません。甲乙間の情報の非対称性をならす証拠開示手続きについて、弁護士間ではいろいろなセミナーが行われているのに、我々市民にはそのおこぼれすら目にすることができなかっただけに9月12日付約100点の電子媒体を差押えろとの請求の理由は目を開かれた思いです。いつまでも、情報遮断する優越的立場で被告の弁護を無力化して差別する邦は民主国家ではありません。ご健闘のほど祈念します。Japan Todayという英語ネットメディアでようやく知りました。https://japantoday.com/category/crime/update-3-ghosn-used-nissan-mitsubishi-venture-to-inflate-pay-lawyers

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