2019年05月09日
夫婦間の接触禁止を保釈条件とする保釈許可決定に対する準抗告
4月25日付保釈許可決定に付された夫婦間の接触禁止という保釈条件に対して、それは家族生活に対する政府の恣意的干渉を禁じる国際人権規約17条に違反するという趣旨の準抗告を申し立てました。
東京地方裁判所裁判官島田一がなした本年4月25日付保釈許可決定につき、次のとおり準抗告の申立てをする。
本件保釈許可決定に付加された指定条件第8項のうち、キャロル・ナハスに関する部分を取り消す。
島田一裁判官は、本件保釈許可決定の指定条件として、カルロス・ゴーン氏がディヴィデンドゥ・クマール、ジル・ノルマンら「事件関係者」と直接または弁護人以外の第三者を介して接触することを禁じた。そしてそれに加えて、ゴーン氏の妻である「キャロル・ナハスについても、同様とするが、前もって、裁判所に対し、面接•連絡を行う日時、場所、方法及び事項を明らかにして接触することの許可を受けた場合を除く」との条件を付加した。ゴーン氏は、4月26日、この指定条件に基づいて、4月29日から5月7日まで毎日午後2時から午後5時までの間の1時間、弁護士法人法律事務所ヒロナカ又は高野隆法律事務所の会議室において、お互いの「安否、健康、家族、近況に関する事項(本件事件の内容に関係する事項を除く)」を確認するために、「弁護人立会いの下での面接、又は弁護人立会いの下での電話(保釈指定条件10項のもの)若しくはパーソナルコンピュータ(保釈指定条件11項のもの)による通信」を行うことの許可を求めた。しかし、島田一裁判官は「職権を発動しない」と一言だけ述べてこれを許可しなかった。そのために、ゴーン夫妻は、本年4月4日早朝の逮捕以来現在まで、面接、通信その他一切の接触ができない状況が続いている。
夫婦の一切の接触を禁じたうえ、極めて制限された範囲内での一時的なコミュニケーションすら裁判官の裁量判断にかからせている本件保釈条件は、家族生活に対する恣意的な干渉を受けないことを保障した市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)17条1項に違反する。直ちに取り消されなければならない。
1 家族生活に対する恣意的な干渉を受けない権利
国際人権規約17条第1項は次のように定める――「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない」。続けて、同条2項は「すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する」としている。
家族は、「社会の自然かつ基礎的な集団単位である」(世界人権宣言16条3項)。家族という基礎的な集団単位を形作るその基礎にあるのは「夫婦」という男女のペアである。家族や夫婦という人の結合が人類の集団的営みの基本なのである。世界人権宣言もそして国際人権規約も、この人類の生存と発展の礎ともいうべき基本権を宣言し、それが不当な干渉を受けないことを確保しようとするのである。
規約が「家族」(family)を「私生活」(privacy)や「住居」(home)、「通信」(correspondence)と並べてそれへの「干渉」(interference)から守ろうとしているのは、偶然ではない。これらは私的で親密な空間、政府や他人から干渉を受けない秘密の領域として確保されることが、人間にとって重要な意味をもつ概念なのである。そうした秘密の領域がなければ、個々人の人間性は破壊されてしまう。これらの領域は人間の尊厳を確保するうえで欠かせないものなのである。
2 恣意性の判断基準:比例テスト
規約が保障する権利に対する侵害や干渉が「恣意的」(arbitrary)か否かを審査する基準として、規約人権委員会(ICCPR28条以下)やヨーロッパ人権裁判所(同条約19条以下)(1) が採択している基準が「比例テスト」(proportionality test)と呼ばれるものである。比例テストは、干渉が恣意的か否かを次の3段階のテストを通じて審査する。
1)公的機関による問題の措置や行動はそもそも「干渉」(interference)と呼べるものか?
2)そうだとして、当該措置や行動は正当な目的(legitimate purpose)すなわち、深刻な犯罪の捜査、訴追や公判、あるいは、他者の権利の保護に役立つものか?
3)そのような干渉は民主主義的な社会にとって必要なものか?
規約人権委員会の一般的見解は「恣意的な干渉」の意味についてこう述べている――「締約国の法に定められた干渉であっても、規約が定める条項その趣旨及び目的に従ったものでなければならず、いかなる場合においても、当該具体的な状況のもとで合理性の認められるものでなければならない」(2) 。
規約人権委員会は、N.K対オランダにおいて、「適格な公的機関といえども、個人に対して彼の家族との接触を禁じることができるのは、規約が理解する民主主義的な社会の利益のために必須と言える場合のみである」と指摘した(3) 。
規約人権委員会は、また、家族の一人である被疑者を海外に強制退去させることが家族生活に対する恣意的な干渉にあたるかどうかが問われたディパン・バドラコッティ対カナダにおいて、家族生活に対する具体的な干渉が客観的に正当化されるかどうかを評価するための適切な考慮要素は、一方において、締約国がその個人を排除する理由の深刻さであり、他方においては、その排除の結果として家族とそのメンバーが直面するであろう困難の程度であるとした。この事件について、委員会は、被疑者の家族生活に対する干渉(被疑者を国外に退去させること)は、さらなる犯罪を防止するという正当な目的と比例し得ない過大なもの(disproportionate)であると結論したのである(4) 。
また、ヨーロッパ人権裁判所の判例は次のように指摘している。
3 本件保釈条件は恣意的な干渉である
本件保釈条件によって日本政府が達成しようとする正当な目的として主張されているのは、ゴーン氏が妻と口裏を合わせて将来の公判において彼女に自己に有利な偽証をさせようとするのを防止すること、あるいは、彼女を通じて第三者に将来の公判廷で自己に有利な偽証をさせることの防止である。まず、後者がゴーン氏の妻との接触を禁止する正当な目的となりえないことは明らかである。事件関係者である第三者と偽証を共謀する方法は自分の妻にそれをさせることだけではない。本件では保釈指定条件第8項でこのことがすでに禁じられているのであるから、それに加えて妻との接触を禁じることは目的に対して明らかに過剰な干渉である。
それでは前者、すなわち妻を「事件関係者」であるとして、妻に対する偽証の働きかけを防止するという目的との関係はどうだろうか。そもそも、キャロルさんを「事件関係者」と認定することに問題がある。彼女は4月22日付公訴事実には登場しない。彼女はSuheil Bahwan Automobileの株主でも役員でもない。Good Faith Investmentとも何の関係もない。今後行われる公判前整理手続のなかなで検察官は、彼女を「事件関係者」として登場させる物語を「証明予定事実」として主張してくるかもしれない。そうしたことをあらかじめ予想して「事件関係者」の範囲を広く認定するというのは明らかに不当である。検察官の主観や訴訟戦略に応じて、基本的な権利に対する干渉の範囲や程度が決まるというのは、まさに「恣意的な」干渉に他ならないからである。
そしてさらに、仮にこの目的が干渉の目的として正当なものであるとしても、その目的達成のためにゴーンさんとその妻であるキャロルさんとの一切の接触を禁止するというのは、あきらかに過剰かつ不合理であり、比例のテストをパスすることはできない。キャロルさんはゴーンさんの妻であるから、彼女には夫の刑事訴追につながるような証言を拒否する権利がある(刑事訴訟法147条1号)。彼女の証言を確保することはわが国の刑事司法においてそもそも必須の条件ではないし、優先順位の高い条件ですらないのである。日本の法はそれがなくても良いと言っているのである。比例のテストの一方の考慮要素である目的達成の切実さは低いものと言わなければならない。さらに言えば、彼女はすでに本件訴因について宣誓のうえで証言しているのである。キャロルさんは本年4月11日に裁判所の召喚に応じて、公判前の証人尋問を受けた。検察官は彼女の供述を得る機会を得て、実際に彼女の証言を確保したのである。これによって、彼女とゴーンさんの接触を禁じてまでして彼女の証言を確保する必要性はなおさらに減少したのである。
それでは他方の考慮要素はどうだろうか。ゴーンさんとキャロルさんの夫婦生活に干渉すること――一切の接触と禁じたうえで、その接触の可否を裁判官の裁量に委ねること――が、彼らの生活と人生に計り知れない悪影響を与えることは多言を要しない。家族のなかでも最も親密かつ広範な交流が認められるべきペアである夫と妻が、会うことも話すことも触れることもできない状況を強制される。これほど残酷で非人道的な「干渉」はない。この状態が続けば夫婦の関係自体に問題が生じることにもなりかねない。
ヨーロッパ人権裁判所は、クルコウスキー対ポーランドにおいて、拘禁施設内の秩序維持のために、受刑者の家族の面会回数を制限したり、風防ガラスで遮断して家族同士の直接の接触を許さないことは、家族生活への恣意的な干渉であるとした (6)。ゴーンさんは受刑者ではない。彼は無罪推定の権利が保障されている(世界人権宣言11条1項、ICCPR14条2項)はずの刑事被告人である。彼は保釈決定を受け15億円の保釈保証金を納めて拘禁施設から解放されたはずである。であるにも関わらず最愛の妻との「直接の接触」はおろか、彼女の顔を垣間見ることすら許されないのである。
家族生活の安定は人間の尊厳の基礎である。ゴーン氏は人間の尊厳の基礎を奪われている。本件保釈条件は家族生活に対する恣意的な干渉に他ならない。国際人権規約17条に基づいて取り消されなければならない。
[注」
(1) EU諸国はICCPRとは別に「人権及び基本的自由の保護のための条約(Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms:ヨーロッパ人権条約)」を採択している。同条約8条は次のように国際人権規約17条と同旨の保障をしている:
「1 すべての者は、その私的及び家庭生活、住居及び通信の権利を有する。
「2 この権利の行使については、法律の基づき、かつ国の安全、公共の安全若しくは国の経済的福利のため、また、無秩序若しくは犯罪防止のため、健康若しくは道徳の保護のため、又は他の者の権 利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる公の機関による干渉もあってはならない。」
(2) HR Committee, General Comment No 16 on Article 17 (The right to respect of privacy, family, home and correspondence, and protection of honour and reputation), 8 April 1988, para 4.
(3)HR Committee, Communication N.K. v Netherland, 10 January 2018, No. 2326/2013, para 9-3.
(4)HR Committee, Communication Deepan Budlakoti v. Canada, 6 April 2018, No. 2264/2013. para 9-5-9-7.
(5)S. and Marper v. United Kingdom, 4 December 2008, application nos. 30562/04 and 30566/04), para 101-102.
(6)Kurkowski v. Poland, 9 April 2013, Application no. 36228/06, para 93-104.
保釈許可決定に対する準抗告申立書
東京地方裁判所裁判官島田一がなした本年4月25日付保釈許可決定につき、次のとおり準抗告の申立てをする。
申立ての趣旨
本件保釈許可決定に付加された指定条件第8項のうち、キャロル・ナハスに関する部分を取り消す。
申立ての理由
島田一裁判官は、本件保釈許可決定の指定条件として、カルロス・ゴーン氏がディヴィデンドゥ・クマール、ジル・ノルマンら「事件関係者」と直接または弁護人以外の第三者を介して接触することを禁じた。そしてそれに加えて、ゴーン氏の妻である「キャロル・ナハスについても、同様とするが、前もって、裁判所に対し、面接•連絡を行う日時、場所、方法及び事項を明らかにして接触することの許可を受けた場合を除く」との条件を付加した。ゴーン氏は、4月26日、この指定条件に基づいて、4月29日から5月7日まで毎日午後2時から午後5時までの間の1時間、弁護士法人法律事務所ヒロナカ又は高野隆法律事務所の会議室において、お互いの「安否、健康、家族、近況に関する事項(本件事件の内容に関係する事項を除く)」を確認するために、「弁護人立会いの下での面接、又は弁護人立会いの下での電話(保釈指定条件10項のもの)若しくはパーソナルコンピュータ(保釈指定条件11項のもの)による通信」を行うことの許可を求めた。しかし、島田一裁判官は「職権を発動しない」と一言だけ述べてこれを許可しなかった。そのために、ゴーン夫妻は、本年4月4日早朝の逮捕以来現在まで、面接、通信その他一切の接触ができない状況が続いている。
夫婦の一切の接触を禁じたうえ、極めて制限された範囲内での一時的なコミュニケーションすら裁判官の裁量判断にかからせている本件保釈条件は、家族生活に対する恣意的な干渉を受けないことを保障した市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR)17条1項に違反する。直ちに取り消されなければならない。
1 家族生活に対する恣意的な干渉を受けない権利
国際人権規約17条第1項は次のように定める――「何人も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない」。続けて、同条2項は「すべての者は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する」としている。
家族は、「社会の自然かつ基礎的な集団単位である」(世界人権宣言16条3項)。家族という基礎的な集団単位を形作るその基礎にあるのは「夫婦」という男女のペアである。家族や夫婦という人の結合が人類の集団的営みの基本なのである。世界人権宣言もそして国際人権規約も、この人類の生存と発展の礎ともいうべき基本権を宣言し、それが不当な干渉を受けないことを確保しようとするのである。
規約が「家族」(family)を「私生活」(privacy)や「住居」(home)、「通信」(correspondence)と並べてそれへの「干渉」(interference)から守ろうとしているのは、偶然ではない。これらは私的で親密な空間、政府や他人から干渉を受けない秘密の領域として確保されることが、人間にとって重要な意味をもつ概念なのである。そうした秘密の領域がなければ、個々人の人間性は破壊されてしまう。これらの領域は人間の尊厳を確保するうえで欠かせないものなのである。
2 恣意性の判断基準:比例テスト
規約が保障する権利に対する侵害や干渉が「恣意的」(arbitrary)か否かを審査する基準として、規約人権委員会(ICCPR28条以下)やヨーロッパ人権裁判所(同条約19条以下)(1) が採択している基準が「比例テスト」(proportionality test)と呼ばれるものである。比例テストは、干渉が恣意的か否かを次の3段階のテストを通じて審査する。
1)公的機関による問題の措置や行動はそもそも「干渉」(interference)と呼べるものか?
2)そうだとして、当該措置や行動は正当な目的(legitimate purpose)すなわち、深刻な犯罪の捜査、訴追や公判、あるいは、他者の権利の保護に役立つものか?
3)そのような干渉は民主主義的な社会にとって必要なものか?
規約人権委員会の一般的見解は「恣意的な干渉」の意味についてこう述べている――「締約国の法に定められた干渉であっても、規約が定める条項その趣旨及び目的に従ったものでなければならず、いかなる場合においても、当該具体的な状況のもとで合理性の認められるものでなければならない」(2) 。
規約人権委員会は、N.K対オランダにおいて、「適格な公的機関といえども、個人に対して彼の家族との接触を禁じることができるのは、規約が理解する民主主義的な社会の利益のために必須と言える場合のみである」と指摘した(3) 。
規約人権委員会は、また、家族の一人である被疑者を海外に強制退去させることが家族生活に対する恣意的な干渉にあたるかどうかが問われたディパン・バドラコッティ対カナダにおいて、家族生活に対する具体的な干渉が客観的に正当化されるかどうかを評価するための適切な考慮要素は、一方において、締約国がその個人を排除する理由の深刻さであり、他方においては、その排除の結果として家族とそのメンバーが直面するであろう困難の程度であるとした。この事件について、委員会は、被疑者の家族生活に対する干渉(被疑者を国外に退去させること)は、さらなる犯罪を防止するという正当な目的と比例し得ない過大なもの(disproportionate)であると結論したのである(4) 。
また、ヨーロッパ人権裁判所の判例は次のように指摘している。
干渉が正当な目的を達成するために「民主的社会において必要」と言えるのは次のような場合である――それが「社会の切実な必要」にこたえるものであるとき;そして、とりわけ、それが目指す正当な目的と比例している(proportionate)こと;そして、国家機関(national authority)が正当化の理由として主張する理由が「適切かつ十分であること」。こうした観点について最初の評価を行うのが国家機関であるとしても、問題の干渉が必要かどうかについての最終的な評価は裁判所によって規約の要請に沿うものかどうかを審査されなければならない。
この評価について的確な国家機関に対して一定の裁量が与えられなければならない。この裁量の幅は、問題となる規約上の権利の性質、その権利の個人にとっての重要さ、干渉の性質と目的などを含むいくつかの要素によって変動する。問題となる権利がその個人が親密なあるいは基本的な権利を効果的に行使するうえで決定的に重要なものであるときには、裁量の幅は狭くなるのである。個人の生存や尊厳に関する重要な要素が問題となっているときには、政府の裁量は制限されなければならない (5)。
3 本件保釈条件は恣意的な干渉である
本件保釈条件によって日本政府が達成しようとする正当な目的として主張されているのは、ゴーン氏が妻と口裏を合わせて将来の公判において彼女に自己に有利な偽証をさせようとするのを防止すること、あるいは、彼女を通じて第三者に将来の公判廷で自己に有利な偽証をさせることの防止である。まず、後者がゴーン氏の妻との接触を禁止する正当な目的となりえないことは明らかである。事件関係者である第三者と偽証を共謀する方法は自分の妻にそれをさせることだけではない。本件では保釈指定条件第8項でこのことがすでに禁じられているのであるから、それに加えて妻との接触を禁じることは目的に対して明らかに過剰な干渉である。
それでは前者、すなわち妻を「事件関係者」であるとして、妻に対する偽証の働きかけを防止するという目的との関係はどうだろうか。そもそも、キャロルさんを「事件関係者」と認定することに問題がある。彼女は4月22日付公訴事実には登場しない。彼女はSuheil Bahwan Automobileの株主でも役員でもない。Good Faith Investmentとも何の関係もない。今後行われる公判前整理手続のなかなで検察官は、彼女を「事件関係者」として登場させる物語を「証明予定事実」として主張してくるかもしれない。そうしたことをあらかじめ予想して「事件関係者」の範囲を広く認定するというのは明らかに不当である。検察官の主観や訴訟戦略に応じて、基本的な権利に対する干渉の範囲や程度が決まるというのは、まさに「恣意的な」干渉に他ならないからである。
そしてさらに、仮にこの目的が干渉の目的として正当なものであるとしても、その目的達成のためにゴーンさんとその妻であるキャロルさんとの一切の接触を禁止するというのは、あきらかに過剰かつ不合理であり、比例のテストをパスすることはできない。キャロルさんはゴーンさんの妻であるから、彼女には夫の刑事訴追につながるような証言を拒否する権利がある(刑事訴訟法147条1号)。彼女の証言を確保することはわが国の刑事司法においてそもそも必須の条件ではないし、優先順位の高い条件ですらないのである。日本の法はそれがなくても良いと言っているのである。比例のテストの一方の考慮要素である目的達成の切実さは低いものと言わなければならない。さらに言えば、彼女はすでに本件訴因について宣誓のうえで証言しているのである。キャロルさんは本年4月11日に裁判所の召喚に応じて、公判前の証人尋問を受けた。検察官は彼女の供述を得る機会を得て、実際に彼女の証言を確保したのである。これによって、彼女とゴーンさんの接触を禁じてまでして彼女の証言を確保する必要性はなおさらに減少したのである。
それでは他方の考慮要素はどうだろうか。ゴーンさんとキャロルさんの夫婦生活に干渉すること――一切の接触と禁じたうえで、その接触の可否を裁判官の裁量に委ねること――が、彼らの生活と人生に計り知れない悪影響を与えることは多言を要しない。家族のなかでも最も親密かつ広範な交流が認められるべきペアである夫と妻が、会うことも話すことも触れることもできない状況を強制される。これほど残酷で非人道的な「干渉」はない。この状態が続けば夫婦の関係自体に問題が生じることにもなりかねない。
ヨーロッパ人権裁判所は、クルコウスキー対ポーランドにおいて、拘禁施設内の秩序維持のために、受刑者の家族の面会回数を制限したり、風防ガラスで遮断して家族同士の直接の接触を許さないことは、家族生活への恣意的な干渉であるとした (6)。ゴーンさんは受刑者ではない。彼は無罪推定の権利が保障されている(世界人権宣言11条1項、ICCPR14条2項)はずの刑事被告人である。彼は保釈決定を受け15億円の保釈保証金を納めて拘禁施設から解放されたはずである。であるにも関わらず最愛の妻との「直接の接触」はおろか、彼女の顔を垣間見ることすら許されないのである。
家族生活の安定は人間の尊厳の基礎である。ゴーン氏は人間の尊厳の基礎を奪われている。本件保釈条件は家族生活に対する恣意的な干渉に他ならない。国際人権規約17条に基づいて取り消されなければならない。
以上
[注」
(1) EU諸国はICCPRとは別に「人権及び基本的自由の保護のための条約(Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms:ヨーロッパ人権条約)」を採択している。同条約8条は次のように国際人権規約17条と同旨の保障をしている:
「1 すべての者は、その私的及び家庭生活、住居及び通信の権利を有する。
「2 この権利の行使については、法律の基づき、かつ国の安全、公共の安全若しくは国の経済的福利のため、また、無秩序若しくは犯罪防止のため、健康若しくは道徳の保護のため、又は他の者の権 利及び自由の保護のため民主的社会において必要なもの以外のいかなる公の機関による干渉もあってはならない。」
(2) HR Committee, General Comment No 16 on Article 17 (The right to respect of privacy, family, home and correspondence, and protection of honour and reputation), 8 April 1988, para 4.
(3)HR Committee, Communication N.K. v Netherland, 10 January 2018, No. 2326/2013, para 9-3.
(4)HR Committee, Communication Deepan Budlakoti v. Canada, 6 April 2018, No. 2264/2013. para 9-5-9-7.
(5)S. and Marper v. United Kingdom, 4 December 2008, application nos. 30562/04 and 30566/04), para 101-102.
(6)Kurkowski v. Poland, 9 April 2013, Application no. 36228/06, para 93-104.
コメント一覧
1. Posted by あまがえる 2019年05月10日 06:10
EUに住んでいます。
花ひらき さわやかな季節を迎えました。3月に申し立てが行われてから2ヶ月が経ちました。毎日 より良き道が開かれますようお祈りしています。
私たち家族も多くの友人たちとともに "時は与えられる" と祈っていることを どうぞ ゴーン氏へお伝えくださいませ。よろしくお願いします。
花ひらき さわやかな季節を迎えました。3月に申し立てが行われてから2ヶ月が経ちました。毎日 より良き道が開かれますようお祈りしています。
私たち家族も多くの友人たちとともに "時は与えられる" と祈っていることを どうぞ ゴーン氏へお伝えくださいませ。よろしくお願いします。
2. Posted by 日本は変わらなければならない 2019年05月10日 09:07
司法取引した2名は不起訴との事。歪な制度が普通に進んでいく事に日本に対して恐怖を覚える。
この腐った権力に立ち向かい壊してほしい。
3. Posted by 日産社内で解決する問題 2019年05月10日 12:11
これから徐々に全世界で日産車の不買運動が頻繁に出てくると思います。
4. Posted by 何言ってるの? 2019年05月11日 00:33
5. Posted by アメリカより(から) 2019年05月11日 05:30
妻さんとの接近禁止は当たり前、それを弁護団が長たらしい説明文で、これは人権侵害だとすぐさま無意味な反論オンパレード、家族ぐるみの犯罪なんですから、証拠隠滅を考えの措置でしょうが、勝てる証拠もない側とは得てして、なんでもかんでも無意味な法律用語を持ち出すもの、何から何までお粗末ですこと、本当に弁護士なんですか?たたの逆切れにしかみえませんけど、依頼人が家族でどんな犯罪を犯し逮捕されたのか、それすら解ってない、あなた大丈夫?
6. Posted by ”俺たちの立証能力が低すぎるのね”と検察が 2019年05月11日 08:07
”俺たちの立証能力が低すぎるのね!”と検察自身が世界に向かって叫んでいるんだって認識無いようですね。
7. Posted by アメリカより(から) 2019年05月11日 10:14
このケースも影が薄くなり、弁護団の力も全く無く、依頼人も弁護団の力の無さを察知し、大統領に救いの作戦、米国人のための大統領が日本の被疑者のために救いの手など差し伸べるわけもない、妻もとうとう血迷い、弁護士の力がないことを知らなかった結果、さらに深みに足を取られ、もはやどうあがいても這い上がれませんね、名前だけ有名な弁護士ほど当てにはならない。
8. Posted by 日産のイメージダウンしかない 2019年05月11日 17:28
日産はゴーン氏に対して損害賠償したりしてるけど、やればやるほど日産ブランドが落ちていき結果、車が売れないという悪循環に気が付かないのか不思議でしょうがない。
倒産寸前の日産をここまで再生した功労者にする事ではなく、西川の単なる個人的な感情だけに思える。西川体制では日産がどんどん悪化して行くから早く総入れ替えを!
倒産寸前の日産をここまで再生した功労者にする事ではなく、西川の単なる個人的な感情だけに思える。西川体制では日産がどんどん悪化して行くから早く総入れ替えを!
9. Posted by 奥さんは、 2019年05月11日 22:17
事件(そもそも事件化したのがおかしいのですが)とは何の関係もないのですから接触禁止はおかしいです。2017-2018年度は西川社長がCEOリザーブから送金してたそうですよ。問題とされている送金が、本当に、間違いなく「不正」なものであるなら西川社長が責任を問われないのは奇妙です。
10. Posted by 通りすがり 2019年05月12日 17:38
弁護人が何を主張しようが、ゴーン氏らが事件関係者への口止めや裏工作等を画策した事実は変わらない。
11. Posted by 欧米基準では戦えない日本の検察 2019年05月13日 06:34
欧米基準ではまったく歯が立たない仕事にならない無能な日本検察。非関税障壁みたいなもので欧米から見たら勝手な事やってるという印象しかないよ。。
12. Posted by おかしい 2019年05月13日 20:03
弁護人らが保釈条件を作成、提示して、
裁判所が認めたことに対し、後から条件にケチを付けるのはおかしいですね。
妻との接触禁止にも同意して、保釈金を払ったはずなのにね。
弁護団の主張は、我々一般市民の感覚と、
相当かけ離れてますな。
裁判所が認めたことに対し、後から条件にケチを付けるのはおかしいですね。
妻との接触禁止にも同意して、保釈金を払ったはずなのにね。
弁護団の主張は、我々一般市民の感覚と、
相当かけ離れてますな。
13. Posted by インパール作戦のよう 2019年05月14日 09:09
これでゴーンさんの無罪が出たらどうするつもりか見ものですね。
14. Posted by 検察の神の手、勝てば官軍 2019年05月14日 10:49
最後は神の手?勝てば官軍、やったもの勝ち。バレなければだけど。
ただ、検察は裁判が終わったかなり後だったら、バレてもいいと思っているかも。ゴーンももう年だしね。
情報公開法は上級国民に甘いって事あるみたいだし。
ただ、検察は裁判が終わったかなり後だったら、バレてもいいと思っているかも。ゴーンももう年だしね。
情報公開法は上級国民に甘いって事あるみたいだし。
15. Posted by 日本国心証主義裁判所、近親相姦を容認? 2019年05月15日 08:46
ぶっ飛んでますねえ。
16. Posted by 卑怯者その名は、ゴーン! 2020年01月05日 11:14
長々と、言い訳ばかり。
卑怯者を逃亡させた責任はとれ。
知らなかった? 驚いている?ニュースで知った?
驚いたのは日本国民だ、日本の法曹界は腐ってる。
卑怯者を逃亡させた責任はとれ。
知らなかった? 驚いている?ニュースで知った?
驚いたのは日本国民だ、日本の法曹界は腐ってる。