2019年04月11日

勾留に関する特別抗告

昨日最高裁判所に提出した「勾留に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告申立書」の内容は次のとおりです。


勾留に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告申立書


 東京地方裁判所裁判官がした勾留裁判に対し弁護人らが準抗告の申立をしたところ、同裁判所刑事13部はこれを棄却する決定をした。この決定は最高裁判所の判例に違反し、かつ、日本国憲法並びに国際人権規約にも違反する。原決定を取り消し、原々決定も取消したうえ、検察官の勾留請求を却下されたい。

抗告の理由

1 最高裁判例違反
 最高裁判所第1小法廷平成26年11月17日決定は、前科前歴のない会社員に対する電車内での痴漢事件について、「被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もある」として、勾留を認めた原決定を破棄して、検察官の勾留請求を却下した原々審の判断を是認した。第1小法廷は次のように説示した。

原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば、本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は、罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ、原々審が、勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは、この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え、本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので、被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると、原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ、原決定の説示をみても、被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで、その可能性の程度についえ原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。最1小決平26・11・17集刑315-183、184頁(強調は引用者)。


 この判例は、刑事訴訟法が定める勾留の要件(「勾留の理由」)の一つである「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」とは、被告人自身による「罪証隠滅の現実的可能性」のことであることを前提に、勾留の理由があるときでもなお、勾留による様々な弊害との比較考量によって勾留する必要性がない場合には勾留してはならないというのである。そして、この「勾留の必要性」の判断においては、被告人による「罪証隠滅の現実的可能性」の「程度」を検討すべきであるというのである。原決定は被告人による「被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もある」と言いながら、「その可能性の程度」について何も示していないので、必要性を肯定した理由が示されていないというのである。この最高裁判例は、要するに、刑事訴訟法60条1項2号の要件について、次の点を明示したのである。

1)「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」とは、被告人自身による罪証隠滅行為の現実的可能性があることである。

2)この現実的可能性があるとしても、その程度が低く、勾留による弊害が大きい場合は、勾留の必要性がないものとして、勾留請求は却下されなければならない。

 この最高裁判例の立場は、現行刑訴法60条の要件を制定した国会における議論とも整合するのである。すなわち、当初の政府原案は、当時のアメリカにおける実務(1) を前提にして、犯罪の相当な嫌疑のほかに勾留の要件を規定していなかった。しかし、政府原案が権利保釈の除外事由の一つとして掲げた「罪証を隠滅する虞あるとき」という文言を巡って国会審議が紛糾した。議員たちの間で、それでは黙秘したり否認する被告人は保釈が認められなくなるという批判が持ち上がり、政府委員が「裁判所が口実に利用しないように罪証湮滅につき相当な顕著な理由があるときは[と]、修正されても結構であると考えている」と説明した。その結果、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という修正案が可決され、それと同時に、勾留の要件についても同じ文言による修正案が可決されたのである(2) 。

 本件の原決定は次のように述べてゴーン氏の勾留を是認した。

被疑者の現在の生活状況等からすると、逃亡のおそれは認められないものの、上記のような本件事案の内容・性質、被疑者の弁解内容、現時点における証拠の収集状況に加え、国内外に多数の関係者がいることや、関係者と被疑者との関係等に照らすと、被疑者が、関係者に働きかけるなどして本件の罪体等について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、勾留の必要性も否定し難い[]。


 原決定が語るのはすべて一般的かつ抽象的な事柄ばかりである。「被疑者の現在の生活状況等からすると、逃亡のおそれは認められない」と言いながら、そのようなゴーン氏がなぜ「関係者に働きかけるなど」するのか何一つ示されていない。関係者に働きかけて証拠隠滅行為をする現実的可能性が示されていない。ましてや、その現実的可能性が高いことも示されていない。
このような説示によって防御の準備をしなければならない被疑者の身体拘束を認めることが最高裁判所の判例に違反することは明らかであろう。

2 憲法違反
 憲法34条は「何人も、正当な理由がなければ拘禁され[ない]」と定めた。この「正当な理由」とは犯罪の相当な嫌疑(probable cause)というような狭い意味ではない。拘禁を正当化するのに十分な理由(adequate cause)という意味である。そのことは、刑事訴訟法案を起草した政府委員やこれを審議した国会議員にとっては自明のことであった。「罪証を隠滅する虞あるとき」には保釈を認めないという政府原案に対して、それでは否認したり黙秘権を行使する被告人は保釈を認められなくなっていしまうのではないかという意見が相次いだ。そうした意見に対して、政府員は「だれが見てもその資料に基けば大体罪証を隠滅すると認められる場合というような場合」に限られるから、そうした心配はないと言ったのである(昭和23年6月24日衆議院司法委員会・40号9頁[野木新一政府委員の発言])。

 原決定がこうした憲法の要請を無視していることは明らかである。非常に厳しい保釈条件を現に守り、現代の都市生活者として極めて不便な生活を粛々として送っているゴーン氏、原決定自身が「逃亡のおそれは認められない」と断言しているゴーン氏が、なぜ、10億円の保釈金が没収され、再び拘置所に戻る危険を顧みずに、「証拠隠滅と思われるような行為をしてはならない」という保釈条件にあえて背いて、「関係者に働きかけるなどして本件の罪体等について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があ[る]」のか、全く理解できない。

 原決定は、本件と保釈条件が付された先行事件とは「別事件である」というが、保釈条件は「証拠隠滅と思われるような行為」を禁じ、かつ、「弁護人請求予定証人」を含む事件関係者との直接・間接の接触を禁じているのである。こうした保釈条件を課され、それを遵守しているゴーン氏が「本件」の関係者――被疑事実に現れている関係会社(中東日産、SBA、GFI)の関係者――に接触しようとするだろうか。常識に照らして判断するならば、少なくとも彼がそのような行為をする「現実的可能性」は極めて低いことは明らかではないか。

 原決定は、何人も正当な理由(adequate cause)がなければ拘禁されないという日本国憲法の保証を否定したのである。
以上


[注]
(1)一定程度の犯罪の嫌疑があれば、被疑者を逮捕して裁判官の面前に引致し、そこで保釈条件を裁判官が設定して保釈する。緑大輔「勾留における『罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由』」季刊刑事弁護98-26(2019)。
(2)前注、27頁。


plltakano at 09:31コメント(7)ゴーン事件 | 未決勾留  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by アメリカより(から)   2019年04月11日 21:50
更新分、漢字ばかりで読みにくい立場です。
弁護士なんですから、文字としての法律用語はお手のもを意識したような、何度もいいますが、その内容とカルロスさんケースにどれだけ当てはまるか?
2. Posted by ヘイ   2019年04月12日 15:20
ヘイ、アメリカより(から)さん!
あなたは、何者ですか?
検察官の回し者ですか?
3. Posted by 頑張って下さい!   2019年04月13日 00:11
5 内容、拝見しました。

裁判所が勾留延長を容認した理由が、あまりに抽象的かつ一般的な紋切り型の文章であることに驚きと失望を感じます。人一人の人生がかかっている局面にもかかわらず、これほどまでに誠意のない対応をしていて心苦しくないのでしょうか?

ゴーン氏の件を知れば知るほど、特捜部・裁判所・日産・マスコミの酷さを痛感しております。

事実に基づく適正な判決を望みます。
見ている人は見ているものです。
高野先生、弘中先生、ゴーン氏、関係者の皆様方にはエールを送りたいと思います。お体にはくれぐれも気を付けて頑張って下さい!
4. Posted by アメリカより(から)   2019年04月13日 01:56
当地には日本語放送なるものがありましでNHK
NEWS が見られるのですが、弘中さんの映像がありましたよ、何故か目がキョロキョロ、カルロスさんの妻が出頭にて、犯罪には加担してないと!当たり前ですよね、犯罪に加担している人は、最初から自分て加担しているなんて言う人はほぼ居ませんから、妻も犯罪に加担しているかどうかは、これから裁判であきらかになるのですから、いまの弁護団のやりかただと偽証罪にもなりそうですね、
5. Posted by アメリカより(から)   2019年04月13日 08:38
カルロスさん、拘留引き伸ばしだそうですね、またまた弁護団は、人権侵害だの高齢だの言いそうですね、犯罪を犯さなければ逮捕も無ければ・再拘留も有りません、そもそも人権侵害を持ち出す方がおかしいですよ、逮捕される前までは、精力的に動き、逮捕されたら高齢者だからって、急にひ弱にする必要があるのは?弁護団が黙秘などをさせたからですよ、言いたいこと言わせればいい、依頼人を病人にさせたのは弁護団ですよ、カルロスさんを依頼人として信用しているのであれば、いらいにんが真っ白だと自信があるのなら、カルロスさんが、尋問中に何を話そうが、痛くも痒くもないでさよね?貴方が弁護団はなにを恐れてますかね?人権侵害をさせているのはあなた方ですよ、結局カルロスさんが、罪を認めてしまうのが恐ろしいのでしようね、なにしろ依頼費用が数億円とか、依頼人を信じてない分、依頼費用分にも満たない仕事では、何を言われるか分かりませんものね、
6. Posted by ひろ   2019年04月14日 00:20
5 「恐らく却下されるのではないかと思っていました」。今回の一連のできごとで人権侵害と保釈した場合のリスクを考えたときに、保釈してしまうと奥さんや知人を使って関連した人たちに口止めしかねないからという理由を使って保釈できないと判断するのでは? と思っていました。

本件で問題だと私が思っているのは、
1 ゴーン氏が犯罪をしたという証拠が日産側からしか取れてないこと(辞めさせたい可能性)
2 ゴーン氏に協力したという中東関係者から証言が得られていないこと(冤罪の可能性)
3 マスコミ、一般人共に「ニュース素材」(検察からの記者クラブへの情報提供)だけで決めつけていること

です。

ゴーン氏が3社を取りまとめる超激務な中、日産の人たちの心情を見逃した可能性はあるし、もらったお金を上手に運用しようとしたことや、またキャロルさんとの派手な結婚式をしたり、と責められても仕方ない部分はあります。けれどもだからと言ってここまで極悪人のごとく一人だけ言われるのは違うと思う。

ヨットや投資会社などに日本名を付けているのはちょっとカッコ悪いな、とも思いましたが、それだけ純粋に日本が好きで、日本人が好きだ。なのに裏切られた気持ちになった。あの痛々しいビデオを見てそう思いました。

証拠隠滅の恐れ、があるからと言いますが、こちらは「証拠を取られた」し、日産にある証拠こそ隠滅する可能性があります。その点も大いに問題です。

非難する人は大勢いますが、応援している人も少なからずいます。私も応援しているひとりです。難しいとは思いますが、最善の手を打ち、打開し、形勢を逆転していってください。見守っています。
7. Posted by アメリカより(から)   2019年04月14日 02:16
高額な依頼費用を受け取っている以上は、敗訴しましたでは済まされませんからね、なにかなんでも公言している通り、事実を捻じ曲げてでもと、必死がうかがえますね。必死になればなるほど、アダとなり、カルロスさんが益々良からぬ方向へ、まっしぐら、何だかんだと法律的な文面を強調するしか頭にありませんから、それのみで反撃中、何をいまから焦ってんでしょ?真実をお持ちなら、再逮捕された位で大騒ぎしなさんな、です。裁判が超楽しみ、といっても、傍聴はできない立場ですか、、それだけがとても残念でございます。

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