2016年04月26日
公判前整理手続について(2):長期化の原因とその対策
公判前整理手続がむやみに長くなる原因を整理しておこう。それとともに、その原因を取り除いて手続を短縮し、充実した公判を早期に開始するための方策を考えてみたい。
「間接事実の交換」
検察官が詳細な間接事実の主張を行う;弁護側がそれに対する認否や反論をする;それを踏まえて検察官がさらに書面で反論をする、というような、民事の準備書面の交換に類比される「間接事実の交換」を繰り返すことが、公判前整理手続を長期化させる最も大きな原因の一つである。そもそも、法はそうしたことを要求しておらず、これが公判を形骸化させ、裁判員と裁判官との間の情報格差、裁判官による裁判員の誘導の原因となっていることはすでに述べたとおりである。
刑事訴訟規則193条1項は「検察官は、まず、事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調を請求しなければならない」と定めている。また、刑事訴訟法は、裁判所は検察官の証明予定事実記載書と証拠請求の期限を定めるものとし(316条の13第4項)、同規則はその期限の遵守義務を定めている(217条の22)。しかし、これらの規制は事実上死文と化している。裁判所は、公判前整理手続に付する決定をするのと同じ頃に、検察官に対して、法にしたがって証明予定事実記載書の提出と証拠調べ請求をする期限を指定はする。しかし、この期限は検察官の主張と証拠請求のタイムリミットとしての機能を全く果たしていない。なぜなら、この期限はあくまでも検察官が「最初の」証明予定事実記載書と証拠調べ請求をする「期限」の意味しかなく、そのあとでも検察官は第2、第3の証明予定事実や証拠の請求ができると理解されているからである。
検察官は、「弁護人の主張を見なければ、争点が明らかではなく、十分な主張立証はできない」などと言う。弁護人が正当防衛とか心神喪失というような積極抗弁(affirmative defense)を主張する場合は、確かに、弁護人の主張と証拠提出を待たなければ検察側の有罪立証は困難であると言える。しかし、訴因の成否だけが問題となるケースでは、検察官は弁護側の主張がどのようなものであれ、訴因を構成するすべての事実を合理的な疑問を超える程度まで立証しなければならないのである。そして、検察官は捜査の過程を通じその強制権限を駆使して、有罪立証に必要な証拠を収集できるはずであり、それができたと考えたから起訴したのである。起訴と同時に、訴因の組み立てに必要な事実関係を主張し、その立証に必要な全ての証拠の取調べを請求することは容易にできるはずである。弁護人の主張立証を待たなければこれができないという理由は全然ない。
書面による「間接事実」の交換をむやみに繰り返させないためには、まず、刑訴法と刑訴規則による期間制限を厳格に適用する必要がある。裁判所が設定した期限のあとに検察官が証明予定事実記載書や証拠調べ請求を追加提出しようとするときは、裁判所が設定した期日まで提出できなかったことがやむを得ないと言える事情がある場合でなければならないであろう。
弁護側が主張明示義務を負うのは、積極抗弁を提出する場合だけであり、訴因事実について「認否」や「反論」を予め主張する義務はないということを三者が理解していれば、「間接事実」を巡っていつまでも書面のやり取りを続けることはなくなるはずである。積極抗弁を提出しない場合、弁護側は検察側立証に対する反証をするための証拠調べ請求だけをすれば良い。そのために予定主張記載書を提出する必要はない。証拠の関連性が分かる程度の立証趣旨を記載した証拠調べ請求を行えば足りるのである。
そもそも、検察官の証明予定事実記載書は必要なんだろうか?わが国の刑事裁判においては、検察官による訴追内容すなわち裁判の対象は「訴因」に明示されるのである。訴因はそれ自体において明確でなければならないのである(刑訴法256条3項)。訴因を明確にするために、その背景事情を説明する必要はないし、むしろ、法はそれを禁じているのである。すなわち、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならない」のである(同条6項)。
公判が開始される前に、請求証拠との関係を「具体的に明示」しながら(刑訴規則217条の20)、訴因を立証する「間接事実」(情況証拠)を主張するというのは、起訴状とともに証拠の抜粋を裁判官に交付しているのとほとんど同じことである。経験を積んだ裁判官であれば、こうした証明予定事実記載書を読めば、検察官がどのような証拠を持っており、その立証活動がどのように展開するのかを手に取るように理解できるであろう。要するに、証明予定事実記載書は裁判官に事実について予断を与える文書に他ならないのである。
検察官が取調べ請求する証拠の関連性を判断するために証明予定事実記載書が必要だということもない。証拠調べ請求をするときには、その証拠の立証趣旨を明示することが必要であり(刑訴規則189条1項)、それで十分である。実際のところ、平成16年の刑訴法改正まではわれわれはそうしてきたし、公判前整理手続が行われない事件ではいまでもわれわれはそうしているのである。
証明予定事実記載書は裁判員のためには全く役に立たない。裁判員は公判前整理手続が終わった後に登場するのである。そして、彼らはそれを読まない。そうすると、結局のところ、検察官の証明予定事実記載書は、裁判官に事件についての予断を与え、彼らが検察の立証の展開を予測する手助けをするだけである。全くそうした情報を持たない裁判員とこうした情報をふんだんに得られる裁判官との間の情報格差は、ほとんど絶対的と言って良い。こうした絶対的な情報の非対称性を温存したまま、「意見の重みは同じです」などと言ってみたところで、裁判官と裁判員との間で平等かつ公正な評議ができるだろうか。できるわけがない。しかも、職業裁判官は当事者双方に「証拠の厳選」を要求し(刑訴規則189条の2)、あとから来た裁判員たちが見聞できる証拠の量を極力少ないものにしようとしている。情報格差は広がるばかりである。
検察官に証明予定事実記載書を提出させる法律は一刻も早く廃止されるべきである。法改正が行われるまでわれわれにできることはなんだろうか。まず、裁判官に予断を与える危険性が高い書面――例えば、証拠の内容を引用しているあるいは引用と変わらないような記載に対しては、異議を申立て削除させることである。それから、認否や反論、求釈明などをしないことである。そうした反応をすることで、裁判官はますます予断をもつことが可能となるからである。認否や反論は法的な義務ではない、ということを肝に命じて、裁判官の理不尽な要求を跳ね返すべきである。
証拠開示までの時間
現行法上弁護側は検察官の証拠調べ請求を待たなければ証拠開示請求をすることができない(刑訴法316条の15第1項)。検察官が証拠調べ請求をするのは、起訴から2、3週間後であることが多い。ときには「証拠の整理に時間が掛かる」などと言って、1ヶ月も2ヶ月も証拠調べ請求をしないことがある。弁護側はその間ただ待つだけである。検察官によっては、「任意開示」をしてくる場合もあるが、全証拠を開示するわけではなく、証拠のリストの開示も行われない。現在国会で審議中の刑訴法改正案では、弁護人の請求によって「検察官が保管する証拠の一覧表」の交付が行われることになっている。しかし、それができるのは、やはり、検察官が証拠調べ請求をした後である。
検察官は起訴の段階で全証拠の内容を把握しているはずであり、当然に、全証拠のリストを持っているはずである。そうでなければ、証拠を管理することもできないだろう。起訴と同時に証拠のリストを弁護人に交付することは簡単にできるだろう。「任意開示」というならば、むしろ任意の証拠リストの開示を行うべきである。起訴から間がない段階で全証拠のリストの開示を受け、適宜その中から必要な証拠を閲覧することができるならば、弁護側は早い段階で――検察官による証明予定事実記載書の提出や証拠請求が行われるのを待つまでもなく――訴因に対する態度――有罪を認めるのか、無罪を主張するのか――を決定することができる。訴因に対する態度決定こそが本来の意味の「争点の整理」である。これがいち早く行なわれ、後述するように、自白事件の審理を迅速に進める方策をとるならば、否認事件も含めて、公判前整理手続の期間は大幅に短縮されることになるだろう。
書証を請求すること
ほとんど全ての事件で、検察官は、間接事実の主張を伴う証明予定事実記載書とともに、その全事実関係と情状関係を証明する証拠書類の取調べを請求する。しかし、それらがそのまま採用されるケースは殆どない。否認事件では多くの証拠書類の取調べに弁護人は同意しない。証拠書類は基本的に伝聞証拠であるから、弁護人が取調べに同意しない限り証拠にはならない。その結果、検察官はあらためて、その供述者の証人尋問を請求することになる。この間のやり取りだけで数ヶ月の時間が経過してしまう。
自白事件でも、裁判員裁判では、最終的には証人尋問を主体とする立証が行われるのであり、検察官が最初に請求した書証がそのまま公判で採用されることはそれほど多くない。ここでも最初の証拠請求の段階で証人尋問の請求をしておけば、時間を短縮することができるのである。
最初の証拠請求の段階から人証中心にするためには、起訴後の早い段階で、自白事件なのか否認事件なのかという選別を行うことが不可欠である。そのためには、起訴から間がない時期に十分な証拠の開示が行われ、「否認」なのか「自白」なのかの選別だけを行うための期日(罪状認否期日)を開く必要があるだろう。
統合捜査報告書の作成
裁判官は、弁護人に対して、自白事件でも否認事件でも、検察官請求の書証の一部に同意するように迫る。これが不当なことは既に述べたとおりである。裁判員裁判では、こうして同意された書証をそのまま採用するのではなく、検察官がそれらを検察官作成の報告書――「統合捜査報告書」と言う――にまとめ、それを証拠として採用し、オリジナルの書証は撤回するという運用が多い。これにも時間がかかる。
統合捜査報告書は当事者の一方である検察官が作成する書類である。実質的にも形式的にも、それは検察官の主張するところをなぞったものとなる。現在の実務では、検察官は冒頭陳述を行う際に、事案の概要や検察官の立証の概要を書いたA3サイズの書面を提出する。その後に検察官が提出して取調べられる「統合捜査報告書」は、このA3の書面と形式的にも内容的にもマッチしたものになっていることが多い。その朗読を聞かされ、書面を見た裁判員は、検察官が捜査を行い、それが正しかったのだという経験を繰り返すことになる。統合捜査報告書の内容が、実は、弁護人と検察官の合意した事項なのだという実質はどこにも現れず、裁判員はそれを理解できないまま審理をすすめることになる。
検察官が作る捜査報告書に弁護側が同意するという実務はやめるべきである。争いのない事実関係は、多くの場合、弁護側の主張立証にとっても有用な事項である。そうであれば、検察官と弁護人が協議して合意書面を作成し、それを証拠として採用する(刑訴法327条)という方策が採れる。その方が公正であり、実態を反映した証拠と言える。書証の請求→一部同意→統合捜査報告書の作成→同意というプロセスを回避して、最初から供述関係は人証を請求し、現場の客観的な状況を示す見取図や写真、あるいは、電話やEメールの通信記録、銀行の送金記録、身分関係などについては、双方の協議で合意書面を作成する、ということにすれば、時間の大幅な節約になるだろう。
公訴事実に争いがない事件では、公訴事実の内容を1通の合意書面に作成して、この合意書面のみで有罪立証することができる。このことに法的な問題は何もない。被告人の自白や有罪の自認(有罪答弁)だけで有罪を宣告するわけではないから(刑訴法319条2項3項)、これは完全に適法な手続である。これによって、公判前整理手続も公判自体も大幅に短縮される。そして、公判では本来の「争点」である量刑に関する事実認定のための証拠調べに焦点をあてることができる。
裁判官の不足・1-4制公判の不活用
刑事裁判の公判は本来連続的に行われるべきものである(刑事訴訟法281条の6)。一度開始したら判決言渡しまで連続して行われなければならない。治罪法(1880年)では公判が5日間以上中断したときは裁判のやり直し(更新)が必要であった(268条2項)。明治刑訴法(1890年)も同じである(183条2項)。大正刑訴法(1922年)ではこの期間は15日間に延長された(353条)。戦後の刑訴法は、公判期日の間隔の日数制限を削除した。政府委員は「今後の訴訟手続は、迅速な裁判という趣旨に基きまして、どんどんと行われるということも考え」て、この規定を削ったのだと説明した((参議院司法委員会会議録45号4頁)。ところが、事態は全く逆の方向に行ってしまったのである。
この「ガラパゴス的進化」にともなって、現在の裁判所の人的体制そのものが「連続開廷」を困難なものにしてしまった。裁判官が一つの事件の公判に集中的に取り組むことがそもそも難しくなってしまったのである。そして、これが公判前整理手続の長期化に大きく寄与しているのである。裁判所の合議部は、通常数十件以上の事件を抱えている。複数の裁判員裁判の公判前整理手続が併行して進んでいることも珍しくない。そして、合議部を構成する3人の裁判官のうち2人(裁判長と右陪席)は合議事件の他に、それと同じ数あるいはそれ以上の数の単独事件を持っている。
裁判員裁判は連日開廷することが他の事件よりも強く要請される。したがって、公判前整理手続の過程で、裁判員事件の審理に見込まれる期間――1週間とか2週間とか――の日程を予め抑えておく必要がある。別の事件の公判予定がすでに入っているので、1週間や2週間の連日開廷日を確保できるのは数カ月以上先である。そして、裁判官は、他の事件も出来るだけ早く処理したいと考えている。だから、本来であれば週5日連日開廷すべきところを、3日とか4日に限定して、空いた日に別の事件の公判期日を入れるのである。
裁判官は「週5日開廷したら、裁判員が疲れる」とか「裁判員も他の仕事がある」などという言い訳をしているが、これは実態に反する見苦しいいい訳である。「裁判員の負担」を口実に自分たちの仕事を効率的に処理したいだけである。普通の大人の市民(会社員、経営者、家庭人、学生)にとって、週に3日、一日おきに3週間拘束されるよりも、9日連続で(1週間と4日)仕事に集中して早く開放される方が望ましいことは常識である。そして、多くの市民は裁判員という職責を真剣に考えている。彼らはそれに集中したいと考えている。1日おきに証言を聞くより、毎日証言を聞くほうが証言の内容を鮮明に記憶することができ、事件の真相をより深く理解できるに違いない。
現在の事態を根本的に改善するためには裁判迅速化法が言うように「法曹人口の大幅な増加、裁判所***の人的体制の拡充」が必要なのかもしれない(裁判迅速化法2条2項)。しかし、現在の体制を前提にしても幾つかの改善策がありうる。一つは先程述べた、自白事件と否認事件の選別を早期に行い、合意書面を活用して自白事件の審理時間を大幅に短縮することである。
もう1つは、現在全く死文と化している、裁判官1名・裁判員4名による公判(裁判員法2条3項)を活用することである。自白事件のうち量刑に関する事実関係についても争いがあまりない事件については、この裁判官1名・裁判員4名の合議体(「1・4制」)で審理をすべきである。例えば、午前中に裁判員の選任から証人尋問と論告弁論までを行い、午後に評議と判決言渡しまでを行うということも不可能ではない。いずれにしても、1・4制による公判を行うことを法は予定していたのであるから、裁判所にはこの制度を使う責任があるはずである。
裁判員裁判の半数以上を占める自白事件の審理が1・4制によって処理されることのメリットは、裁判官の人員配置という点でも、非常に大きいと思う。例えば、3人の合議部に10件の裁判員裁判が係属しおり、そのうち5件が1・4制適合事件だとすると、裁判長と右陪席がこの5件を手分けして1週間で処理すれば、残り5件の否認ないし複雑な事件だけを3人で処理すれば済む。このメリットを最大限に活かすには、一つの合議部に4人の裁判官を配置して、そのうちの1人は1・4制の裁判を専属的に扱うというローテーションを組むことである。
詳細な審理予定の策定
裁判員裁判を担当する裁判官はとにかく詳細な審理予定を定めたがる。双方の冒頭陳述の時間から、書証や証拠物の取調べ時間、証人に対する主尋問、反対尋問、補充尋問の時間、最終弁論の時間まで、そしてさらに、評議の時間まで、分刻みで決めようとする。こうした詳細を極めた審理予定を作るために、当事者に細かい認否をさせたり、証拠の立証趣旨を細かく釈明したりする。要するに、事件の心証が採れるくらいでなければ、詳細で正確な審理予定など作れないのである。いずれにしても、当事者の意向を確認し、調整しながら、こうした予定を作るために何週間もの時間をかけるのである。
そして、公判ではこの予め定められたシナリオのとおりに手続が進行することを極力確保しようとする。弁護人の弁論が予定時間に近づくにつれて裁判長は苛立ちを隠さず、法廷の時計を凝視する。ストップウォッチを弁護人に向けて差し出すしぐさをした裁判長もいた。こうした極端なまでの「事前準備主義」とその「励行」が公判前整理手続の肥大化と公判の形骸化をもたらす元凶の一つであることはすでに述べたとおりである。
予定は予定であり予定に過ぎないのである。公判を真に生き生きとした実体審理の場にするためには、訴訟関係人がその場で思うとことを心置きなく主張し、かつ、その証明を行う機会を十分に与えられるべきである。その場ですべてを出さないかぎり後がないという「一回性」の緊張感のなかで、臨機応変に口頭での法廷技術を駆使できるようにしなければならない。「時刻表」から外れることは許さないというような状態ではそうした審理は期待できない。予定よりも尋問が延びたとしても、その尋問が関連性のあるものであるならば、それを許さなければならない。弁論が予定の時刻を過ぎても、裁判員がそれを熱心に聞いており、それが聞くに値する内容であるならば、それを遮る理由はない。これを遮ることは不当な弁論制限である。現代の日本の裁判官に、多少の逸脱や回り道を許容するいわば「大人」のゆとりや寛容の精神と呼べるものを期待することはほとんど不可能であるとしても、証拠法上の関連性の法則に従い、憲法上の弁護権を保障する職責があることは否定できないのである。
審理予定は分刻みで決めるべきではない。ざっくりと決めるべきである。例えば、証人尋問の時間は日にち単位あるいはせいぜい午前か午後かという範囲で決めるべきである。時には複数日にわたる予定を決めて、証人にはその両日の日程を確保することを要求するべきである。証人の出頭義務や証言義務は、憲法体制のもとにおける統治機構を支える根本的な義務である。それと当時に、それは個人の基本的権利である正義と自由を実効的に保障するために必須の義務なのである。日本の裁判所は国民に対して証人としての義務が、この国が自由で秩序ある国であるために必要不可欠な崇高な義務であることをきちんと説明するべきである。
公判日程はおおむねの期間として指定され、裁判員予定者に告知されるべきである。判決宣告日すなわち評議時間をあらかじめ決めることは、許されるべきではない。評議のプロセスは裁判官と対等の事実認定者である裁判員が協議して決めらなければならない。
あるべき公判前整理手続のイメージ
以上のことを踏まえて、あるべき公判前整理手続の流れを提案したい。
1 起訴と同時に検察官は手持ち証拠の一覧表を弁護人に交付する。
2 弁護人は一覧表の中から訴因に対する態度決定をするのに必要と思われる証拠の開示を検察官に要求し、検察官はそれを開示する。
3 裁判所は起訴から2〜3週間程度の後に罪状認否のための公判前整理手続期日を指定する。この期日は必ず公開法廷で行い、被告人は必ず出席する。
4 罪状認否期日において、裁判所は被告人と弁護人に訴因に対する答弁を求める。答弁は、1)有罪、2)無罪、そして、3)沈黙あるいは留保の3種類とする。
5 被告人と弁護人が有罪を自認したときは、
(1)検察官と弁護人は、訴因の内容が関係証拠から真実であると認められる旨を記載した合意書面を作成する。
(2)裁判所は、合意書面の採用決定と、事件を裁判官1名・裁判員4名の合議体で審理する旨の決定を行い、双方の意見を聞いたうえで、双方が量刑に関する証拠調べ請求を行う期限を決定し告知する。
(3)検察官、弁護人双方とも、できる限り証人尋問の請求を行い、書証の請求は避ける。
(4)裁判所は上記期限の後に、証人等の採否決定を行い、裁判員選任手続期日と公判期日を指定する。
6 第4項の期日に被告人又は弁護人が無罪あるいは留保の答弁を行ったときは、
(1)裁判所は、双方の意見を聴いて、検察官の証明予定事実記載書の提出及び証拠請求の期限を定める。
(2)検察官は、供述証拠に関しては、できる限り証人尋問の請求をする。
(3)弁護人は第1項で交付された一覧表にもとづいて、証拠開示請求を行う。
(4)弁護人は、積極抗弁を提出するときは予定主張記載書を提出し、証拠調べ請求書を提出する。積極抗弁がない事件では証拠調べ請求書のみ提出する。
(5)裁判所は、証拠決定を行い、公判期日を指定する。
これらの手続は現行法のもとでも実施可能である。
「間接事実の交換」
検察官が詳細な間接事実の主張を行う;弁護側がそれに対する認否や反論をする;それを踏まえて検察官がさらに書面で反論をする、というような、民事の準備書面の交換に類比される「間接事実の交換」を繰り返すことが、公判前整理手続を長期化させる最も大きな原因の一つである。そもそも、法はそうしたことを要求しておらず、これが公判を形骸化させ、裁判員と裁判官との間の情報格差、裁判官による裁判員の誘導の原因となっていることはすでに述べたとおりである。
刑事訴訟規則193条1項は「検察官は、まず、事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調を請求しなければならない」と定めている。また、刑事訴訟法は、裁判所は検察官の証明予定事実記載書と証拠請求の期限を定めるものとし(316条の13第4項)、同規則はその期限の遵守義務を定めている(217条の22)。しかし、これらの規制は事実上死文と化している。裁判所は、公判前整理手続に付する決定をするのと同じ頃に、検察官に対して、法にしたがって証明予定事実記載書の提出と証拠調べ請求をする期限を指定はする。しかし、この期限は検察官の主張と証拠請求のタイムリミットとしての機能を全く果たしていない。なぜなら、この期限はあくまでも検察官が「最初の」証明予定事実記載書と証拠調べ請求をする「期限」の意味しかなく、そのあとでも検察官は第2、第3の証明予定事実や証拠の請求ができると理解されているからである。
検察官は、「弁護人の主張を見なければ、争点が明らかではなく、十分な主張立証はできない」などと言う。弁護人が正当防衛とか心神喪失というような積極抗弁(affirmative defense)を主張する場合は、確かに、弁護人の主張と証拠提出を待たなければ検察側の有罪立証は困難であると言える。しかし、訴因の成否だけが問題となるケースでは、検察官は弁護側の主張がどのようなものであれ、訴因を構成するすべての事実を合理的な疑問を超える程度まで立証しなければならないのである。そして、検察官は捜査の過程を通じその強制権限を駆使して、有罪立証に必要な証拠を収集できるはずであり、それができたと考えたから起訴したのである。起訴と同時に、訴因の組み立てに必要な事実関係を主張し、その立証に必要な全ての証拠の取調べを請求することは容易にできるはずである。弁護人の主張立証を待たなければこれができないという理由は全然ない。
書面による「間接事実」の交換をむやみに繰り返させないためには、まず、刑訴法と刑訴規則による期間制限を厳格に適用する必要がある。裁判所が設定した期限のあとに検察官が証明予定事実記載書や証拠調べ請求を追加提出しようとするときは、裁判所が設定した期日まで提出できなかったことがやむを得ないと言える事情がある場合でなければならないであろう。
弁護側が主張明示義務を負うのは、積極抗弁を提出する場合だけであり、訴因事実について「認否」や「反論」を予め主張する義務はないということを三者が理解していれば、「間接事実」を巡っていつまでも書面のやり取りを続けることはなくなるはずである。積極抗弁を提出しない場合、弁護側は検察側立証に対する反証をするための証拠調べ請求だけをすれば良い。そのために予定主張記載書を提出する必要はない。証拠の関連性が分かる程度の立証趣旨を記載した証拠調べ請求を行えば足りるのである。
そもそも、検察官の証明予定事実記載書は必要なんだろうか?わが国の刑事裁判においては、検察官による訴追内容すなわち裁判の対象は「訴因」に明示されるのである。訴因はそれ自体において明確でなければならないのである(刑訴法256条3項)。訴因を明確にするために、その背景事情を説明する必要はないし、むしろ、法はそれを禁じているのである。すなわち、「起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添付し、又はその内容を引用してはならない」のである(同条6項)。
公判が開始される前に、請求証拠との関係を「具体的に明示」しながら(刑訴規則217条の20)、訴因を立証する「間接事実」(情況証拠)を主張するというのは、起訴状とともに証拠の抜粋を裁判官に交付しているのとほとんど同じことである。経験を積んだ裁判官であれば、こうした証明予定事実記載書を読めば、検察官がどのような証拠を持っており、その立証活動がどのように展開するのかを手に取るように理解できるであろう。要するに、証明予定事実記載書は裁判官に事実について予断を与える文書に他ならないのである。
検察官が取調べ請求する証拠の関連性を判断するために証明予定事実記載書が必要だということもない。証拠調べ請求をするときには、その証拠の立証趣旨を明示することが必要であり(刑訴規則189条1項)、それで十分である。実際のところ、平成16年の刑訴法改正まではわれわれはそうしてきたし、公判前整理手続が行われない事件ではいまでもわれわれはそうしているのである。
証明予定事実記載書は裁判員のためには全く役に立たない。裁判員は公判前整理手続が終わった後に登場するのである。そして、彼らはそれを読まない。そうすると、結局のところ、検察官の証明予定事実記載書は、裁判官に事件についての予断を与え、彼らが検察の立証の展開を予測する手助けをするだけである。全くそうした情報を持たない裁判員とこうした情報をふんだんに得られる裁判官との間の情報格差は、ほとんど絶対的と言って良い。こうした絶対的な情報の非対称性を温存したまま、「意見の重みは同じです」などと言ってみたところで、裁判官と裁判員との間で平等かつ公正な評議ができるだろうか。できるわけがない。しかも、職業裁判官は当事者双方に「証拠の厳選」を要求し(刑訴規則189条の2)、あとから来た裁判員たちが見聞できる証拠の量を極力少ないものにしようとしている。情報格差は広がるばかりである。
検察官に証明予定事実記載書を提出させる法律は一刻も早く廃止されるべきである。法改正が行われるまでわれわれにできることはなんだろうか。まず、裁判官に予断を与える危険性が高い書面――例えば、証拠の内容を引用しているあるいは引用と変わらないような記載に対しては、異議を申立て削除させることである。それから、認否や反論、求釈明などをしないことである。そうした反応をすることで、裁判官はますます予断をもつことが可能となるからである。認否や反論は法的な義務ではない、ということを肝に命じて、裁判官の理不尽な要求を跳ね返すべきである。
証拠開示までの時間
現行法上弁護側は検察官の証拠調べ請求を待たなければ証拠開示請求をすることができない(刑訴法316条の15第1項)。検察官が証拠調べ請求をするのは、起訴から2、3週間後であることが多い。ときには「証拠の整理に時間が掛かる」などと言って、1ヶ月も2ヶ月も証拠調べ請求をしないことがある。弁護側はその間ただ待つだけである。検察官によっては、「任意開示」をしてくる場合もあるが、全証拠を開示するわけではなく、証拠のリストの開示も行われない。現在国会で審議中の刑訴法改正案では、弁護人の請求によって「検察官が保管する証拠の一覧表」の交付が行われることになっている。しかし、それができるのは、やはり、検察官が証拠調べ請求をした後である。
検察官は起訴の段階で全証拠の内容を把握しているはずであり、当然に、全証拠のリストを持っているはずである。そうでなければ、証拠を管理することもできないだろう。起訴と同時に証拠のリストを弁護人に交付することは簡単にできるだろう。「任意開示」というならば、むしろ任意の証拠リストの開示を行うべきである。起訴から間がない段階で全証拠のリストの開示を受け、適宜その中から必要な証拠を閲覧することができるならば、弁護側は早い段階で――検察官による証明予定事実記載書の提出や証拠請求が行われるのを待つまでもなく――訴因に対する態度――有罪を認めるのか、無罪を主張するのか――を決定することができる。訴因に対する態度決定こそが本来の意味の「争点の整理」である。これがいち早く行なわれ、後述するように、自白事件の審理を迅速に進める方策をとるならば、否認事件も含めて、公判前整理手続の期間は大幅に短縮されることになるだろう。
書証を請求すること
ほとんど全ての事件で、検察官は、間接事実の主張を伴う証明予定事実記載書とともに、その全事実関係と情状関係を証明する証拠書類の取調べを請求する。しかし、それらがそのまま採用されるケースは殆どない。否認事件では多くの証拠書類の取調べに弁護人は同意しない。証拠書類は基本的に伝聞証拠であるから、弁護人が取調べに同意しない限り証拠にはならない。その結果、検察官はあらためて、その供述者の証人尋問を請求することになる。この間のやり取りだけで数ヶ月の時間が経過してしまう。
自白事件でも、裁判員裁判では、最終的には証人尋問を主体とする立証が行われるのであり、検察官が最初に請求した書証がそのまま公判で採用されることはそれほど多くない。ここでも最初の証拠請求の段階で証人尋問の請求をしておけば、時間を短縮することができるのである。
最初の証拠請求の段階から人証中心にするためには、起訴後の早い段階で、自白事件なのか否認事件なのかという選別を行うことが不可欠である。そのためには、起訴から間がない時期に十分な証拠の開示が行われ、「否認」なのか「自白」なのかの選別だけを行うための期日(罪状認否期日)を開く必要があるだろう。
統合捜査報告書の作成
裁判官は、弁護人に対して、自白事件でも否認事件でも、検察官請求の書証の一部に同意するように迫る。これが不当なことは既に述べたとおりである。裁判員裁判では、こうして同意された書証をそのまま採用するのではなく、検察官がそれらを検察官作成の報告書――「統合捜査報告書」と言う――にまとめ、それを証拠として採用し、オリジナルの書証は撤回するという運用が多い。これにも時間がかかる。
統合捜査報告書は当事者の一方である検察官が作成する書類である。実質的にも形式的にも、それは検察官の主張するところをなぞったものとなる。現在の実務では、検察官は冒頭陳述を行う際に、事案の概要や検察官の立証の概要を書いたA3サイズの書面を提出する。その後に検察官が提出して取調べられる「統合捜査報告書」は、このA3の書面と形式的にも内容的にもマッチしたものになっていることが多い。その朗読を聞かされ、書面を見た裁判員は、検察官が捜査を行い、それが正しかったのだという経験を繰り返すことになる。統合捜査報告書の内容が、実は、弁護人と検察官の合意した事項なのだという実質はどこにも現れず、裁判員はそれを理解できないまま審理をすすめることになる。
検察官が作る捜査報告書に弁護側が同意するという実務はやめるべきである。争いのない事実関係は、多くの場合、弁護側の主張立証にとっても有用な事項である。そうであれば、検察官と弁護人が協議して合意書面を作成し、それを証拠として採用する(刑訴法327条)という方策が採れる。その方が公正であり、実態を反映した証拠と言える。書証の請求→一部同意→統合捜査報告書の作成→同意というプロセスを回避して、最初から供述関係は人証を請求し、現場の客観的な状況を示す見取図や写真、あるいは、電話やEメールの通信記録、銀行の送金記録、身分関係などについては、双方の協議で合意書面を作成する、ということにすれば、時間の大幅な節約になるだろう。
公訴事実に争いがない事件では、公訴事実の内容を1通の合意書面に作成して、この合意書面のみで有罪立証することができる。このことに法的な問題は何もない。被告人の自白や有罪の自認(有罪答弁)だけで有罪を宣告するわけではないから(刑訴法319条2項3項)、これは完全に適法な手続である。これによって、公判前整理手続も公判自体も大幅に短縮される。そして、公判では本来の「争点」である量刑に関する事実認定のための証拠調べに焦点をあてることができる。
裁判官の不足・1-4制公判の不活用
刑事裁判の公判は本来連続的に行われるべきものである(刑事訴訟法281条の6)。一度開始したら判決言渡しまで連続して行われなければならない。治罪法(1880年)では公判が5日間以上中断したときは裁判のやり直し(更新)が必要であった(268条2項)。明治刑訴法(1890年)も同じである(183条2項)。大正刑訴法(1922年)ではこの期間は15日間に延長された(353条)。戦後の刑訴法は、公判期日の間隔の日数制限を削除した。政府委員は「今後の訴訟手続は、迅速な裁判という趣旨に基きまして、どんどんと行われるということも考え」て、この規定を削ったのだと説明した((参議院司法委員会会議録45号4頁)。ところが、事態は全く逆の方向に行ってしまったのである。
この「ガラパゴス的進化」にともなって、現在の裁判所の人的体制そのものが「連続開廷」を困難なものにしてしまった。裁判官が一つの事件の公判に集中的に取り組むことがそもそも難しくなってしまったのである。そして、これが公判前整理手続の長期化に大きく寄与しているのである。裁判所の合議部は、通常数十件以上の事件を抱えている。複数の裁判員裁判の公判前整理手続が併行して進んでいることも珍しくない。そして、合議部を構成する3人の裁判官のうち2人(裁判長と右陪席)は合議事件の他に、それと同じ数あるいはそれ以上の数の単独事件を持っている。
裁判員裁判は連日開廷することが他の事件よりも強く要請される。したがって、公判前整理手続の過程で、裁判員事件の審理に見込まれる期間――1週間とか2週間とか――の日程を予め抑えておく必要がある。別の事件の公判予定がすでに入っているので、1週間や2週間の連日開廷日を確保できるのは数カ月以上先である。そして、裁判官は、他の事件も出来るだけ早く処理したいと考えている。だから、本来であれば週5日連日開廷すべきところを、3日とか4日に限定して、空いた日に別の事件の公判期日を入れるのである。
裁判官は「週5日開廷したら、裁判員が疲れる」とか「裁判員も他の仕事がある」などという言い訳をしているが、これは実態に反する見苦しいいい訳である。「裁判員の負担」を口実に自分たちの仕事を効率的に処理したいだけである。普通の大人の市民(会社員、経営者、家庭人、学生)にとって、週に3日、一日おきに3週間拘束されるよりも、9日連続で(1週間と4日)仕事に集中して早く開放される方が望ましいことは常識である。そして、多くの市民は裁判員という職責を真剣に考えている。彼らはそれに集中したいと考えている。1日おきに証言を聞くより、毎日証言を聞くほうが証言の内容を鮮明に記憶することができ、事件の真相をより深く理解できるに違いない。
現在の事態を根本的に改善するためには裁判迅速化法が言うように「法曹人口の大幅な増加、裁判所***の人的体制の拡充」が必要なのかもしれない(裁判迅速化法2条2項)。しかし、現在の体制を前提にしても幾つかの改善策がありうる。一つは先程述べた、自白事件と否認事件の選別を早期に行い、合意書面を活用して自白事件の審理時間を大幅に短縮することである。
もう1つは、現在全く死文と化している、裁判官1名・裁判員4名による公判(裁判員法2条3項)を活用することである。自白事件のうち量刑に関する事実関係についても争いがあまりない事件については、この裁判官1名・裁判員4名の合議体(「1・4制」)で審理をすべきである。例えば、午前中に裁判員の選任から証人尋問と論告弁論までを行い、午後に評議と判決言渡しまでを行うということも不可能ではない。いずれにしても、1・4制による公判を行うことを法は予定していたのであるから、裁判所にはこの制度を使う責任があるはずである。
裁判員裁判の半数以上を占める自白事件の審理が1・4制によって処理されることのメリットは、裁判官の人員配置という点でも、非常に大きいと思う。例えば、3人の合議部に10件の裁判員裁判が係属しおり、そのうち5件が1・4制適合事件だとすると、裁判長と右陪席がこの5件を手分けして1週間で処理すれば、残り5件の否認ないし複雑な事件だけを3人で処理すれば済む。このメリットを最大限に活かすには、一つの合議部に4人の裁判官を配置して、そのうちの1人は1・4制の裁判を専属的に扱うというローテーションを組むことである。
詳細な審理予定の策定
裁判員裁判を担当する裁判官はとにかく詳細な審理予定を定めたがる。双方の冒頭陳述の時間から、書証や証拠物の取調べ時間、証人に対する主尋問、反対尋問、補充尋問の時間、最終弁論の時間まで、そしてさらに、評議の時間まで、分刻みで決めようとする。こうした詳細を極めた審理予定を作るために、当事者に細かい認否をさせたり、証拠の立証趣旨を細かく釈明したりする。要するに、事件の心証が採れるくらいでなければ、詳細で正確な審理予定など作れないのである。いずれにしても、当事者の意向を確認し、調整しながら、こうした予定を作るために何週間もの時間をかけるのである。
そして、公判ではこの予め定められたシナリオのとおりに手続が進行することを極力確保しようとする。弁護人の弁論が予定時間に近づくにつれて裁判長は苛立ちを隠さず、法廷の時計を凝視する。ストップウォッチを弁護人に向けて差し出すしぐさをした裁判長もいた。こうした極端なまでの「事前準備主義」とその「励行」が公判前整理手続の肥大化と公判の形骸化をもたらす元凶の一つであることはすでに述べたとおりである。
予定は予定であり予定に過ぎないのである。公判を真に生き生きとした実体審理の場にするためには、訴訟関係人がその場で思うとことを心置きなく主張し、かつ、その証明を行う機会を十分に与えられるべきである。その場ですべてを出さないかぎり後がないという「一回性」の緊張感のなかで、臨機応変に口頭での法廷技術を駆使できるようにしなければならない。「時刻表」から外れることは許さないというような状態ではそうした審理は期待できない。予定よりも尋問が延びたとしても、その尋問が関連性のあるものであるならば、それを許さなければならない。弁論が予定の時刻を過ぎても、裁判員がそれを熱心に聞いており、それが聞くに値する内容であるならば、それを遮る理由はない。これを遮ることは不当な弁論制限である。現代の日本の裁判官に、多少の逸脱や回り道を許容するいわば「大人」のゆとりや寛容の精神と呼べるものを期待することはほとんど不可能であるとしても、証拠法上の関連性の法則に従い、憲法上の弁護権を保障する職責があることは否定できないのである。
審理予定は分刻みで決めるべきではない。ざっくりと決めるべきである。例えば、証人尋問の時間は日にち単位あるいはせいぜい午前か午後かという範囲で決めるべきである。時には複数日にわたる予定を決めて、証人にはその両日の日程を確保することを要求するべきである。証人の出頭義務や証言義務は、憲法体制のもとにおける統治機構を支える根本的な義務である。それと当時に、それは個人の基本的権利である正義と自由を実効的に保障するために必須の義務なのである。日本の裁判所は国民に対して証人としての義務が、この国が自由で秩序ある国であるために必要不可欠な崇高な義務であることをきちんと説明するべきである。
公判日程はおおむねの期間として指定され、裁判員予定者に告知されるべきである。判決宣告日すなわち評議時間をあらかじめ決めることは、許されるべきではない。評議のプロセスは裁判官と対等の事実認定者である裁判員が協議して決めらなければならない。
あるべき公判前整理手続のイメージ
以上のことを踏まえて、あるべき公判前整理手続の流れを提案したい。
1 起訴と同時に検察官は手持ち証拠の一覧表を弁護人に交付する。
2 弁護人は一覧表の中から訴因に対する態度決定をするのに必要と思われる証拠の開示を検察官に要求し、検察官はそれを開示する。
3 裁判所は起訴から2〜3週間程度の後に罪状認否のための公判前整理手続期日を指定する。この期日は必ず公開法廷で行い、被告人は必ず出席する。
4 罪状認否期日において、裁判所は被告人と弁護人に訴因に対する答弁を求める。答弁は、1)有罪、2)無罪、そして、3)沈黙あるいは留保の3種類とする。
5 被告人と弁護人が有罪を自認したときは、
(1)検察官と弁護人は、訴因の内容が関係証拠から真実であると認められる旨を記載した合意書面を作成する。
(2)裁判所は、合意書面の採用決定と、事件を裁判官1名・裁判員4名の合議体で審理する旨の決定を行い、双方の意見を聞いたうえで、双方が量刑に関する証拠調べ請求を行う期限を決定し告知する。
(3)検察官、弁護人双方とも、できる限り証人尋問の請求を行い、書証の請求は避ける。
(4)裁判所は上記期限の後に、証人等の採否決定を行い、裁判員選任手続期日と公判期日を指定する。
6 第4項の期日に被告人又は弁護人が無罪あるいは留保の答弁を行ったときは、
(1)裁判所は、双方の意見を聴いて、検察官の証明予定事実記載書の提出及び証拠請求の期限を定める。
(2)検察官は、供述証拠に関しては、できる限り証人尋問の請求をする。
(3)弁護人は第1項で交付された一覧表にもとづいて、証拠開示請求を行う。
(4)弁護人は、積極抗弁を提出するときは予定主張記載書を提出し、証拠調べ請求書を提出する。積極抗弁がない事件では証拠調べ請求書のみ提出する。
(5)裁判所は、証拠決定を行い、公判期日を指定する。
これらの手続は現行法のもとでも実施可能である。