2015年05月02日
高橋事件弁護団広報2015年5月1日:控訴
高橋克也氏とわれわれ弁護人は、昨日の有罪判決に対して、本日控訴しました。
判決の事実認定は、その手法もその結果もとうてい納得できるようなものではありません。裁判所は、高橋さんに「サリンを撒くので運転手役をやるように」と指示したという井上嘉浩氏の証言は信用できないと言いました。また、高橋さんがいる部屋で「サリン」という言葉を聞いたり言ったりしたという林郁夫氏と広瀬健一氏の証言はいずれも信用できないと言いました。判決は、サリンを地下鉄に撒くという計画を高橋さんは誰からも告げらなかったと判断したのです。にもかかわらず、鼻水と涙が出たので自動車の窓を開けたとか、渋谷の拠点にもどって林郁夫氏から注射をしてもらったというような、さまざまに解釈できる事情を恣意的に取り上げ、推論を重ねて、「サリンの可能性を含む、人を死亡させる危険性の高い揮発性の毒物を撒くと認識していた」などと認定しました。
裁判所は弁護人が指摘した無罪方向の証拠を無視することすらしました。例えば、「高橋の方から『中毒が心配だから治療して欲しい』と言って寄ってきた」という林郁夫氏の証言について、林氏は事件直後には警察から写真を示されて「高橋はサリン事件のメンバーの中にいなかった」と述べていたのです。いなかったと思う人間から「中毒が心配だから治療して欲しい」と言われたと記憶することなど不可能です。しかし、裁判所はこの重大な証拠を黙殺しました。そして、林郁夫は「被告人が争っているサリンの認識に関わることについて、特に慎重に証言している」などと全く根拠のない、むしろ真実とは真逆の評価を行いました。そもそも、「人を死亡させる危険性の高い揮発性の毒物」のせいで急に鼻水と涙が出たと感じている人が、わざわざ遠回りして時間を潰してから拠点に帰るでしょうか?
VX事件では、事件にかかわった出家信者の多くが教団製の「VX」なるものの効力に大いに疑問を持っていました。その疑問には根拠がありました。実際に最初の実行では何らの効果もありませんでした。判決は、あえて従来品とは異なる「新しいVX」が濱口さんに使われたと言いました。しかし、そのことが高橋さんには知らされていなかったという事実を無視しました。高橋さんが井上の指示で病院に行ったという事実を無視して、病院に行ったという点だけを取り出して、「殺傷力があることを当然の前提としたもの」と決めつけました。
假谷事件では、「すでに麻酔薬の影響を脱していた」「心不全のような突発的なこと以外に死亡の危険はなかった」という林郁夫の証言にあえて目をつぶり、假谷清志さんの死因を「麻酔薬の過量投与による副作用」だと決めつけました。他方で判決は、麻酔薬が使われることについて高橋氏が知らなかったことを認めました。そうであるにもかかわらず、麻酔薬の投与は「主要部分(骨格)」ではないと言って致死の責任まで認めてしまいました。
都庁事件では、裁判所は世界中の科学者が依拠する爆風圧の定義を無視しました。そのうえで、爆発物の人体への影響に関する研究者が具体的な数値と症例を示して、この程度の爆薬の量では人が死ぬことはないと証言しているのを過小評価しました。そして、実際に人が死んでおらず、事件に関与した関係者が口を揃えて「人の死は望んでいなかった」、「鉛玉を入れるのをやめた」と証言しているのを無視して、「大きなことを起こす」とはすなわち「要人を殺すこと」に他ならないと決めつけました。
これらはほんの一部です。刑事6部の証拠評価、事実認定の問題点は枚挙に暇がありません。
地裁の判断の問題点はその訴訟手続にもありました。事件の「首謀者」とされる人物の証人尋問の請求を裁判官たちは「必要性がない」と言い張って却下しました。「サリン」や「VX」の製造を担当していたとされた人物の証人尋問も却下しました。製造者本人の証言も聞かずに、使用されたのは「新しいVX」であるとか、その「殺傷力は明らか」などと断定しました。裁判所はさらに、全く必要性がなく当の証人が嫌がっているにもかかわらず、法の要件とその立法経緯を無視して、「死刑囚」が証言する姿を傍聴人に見せないようにする「遮へい措置」を実行しました。さらには、証人がそれを希望しているというだけの理由で公判期日を取り消して同じ日の同じ時刻に「期日外尋問」をするという明白な脱法行為までしました。こうした裁判所の措置は、刑事被告人の憲法上の権利を直接侵害するものです。
われわれは一方的で不正確な情報だけを伝えるマスコミ報道が裁判官や裁判員の判断にどの程度の影響を与えたのか分かりません。また、評議室のなかで市民の代表である裁判員がどの程度活発に意見を延べ、それが判決にどの程度反映したのかも分かりません。全ては「守秘義務」のベールに包まれています。裁判員や補充裁判員は判決言い渡し後も自ら体験した事実を表現する自由を奪われたままです。しかし、いつか必ずこの理不尽な状況は改善されるだろうと思います。裁判員が評議室のなかで体験した真実を語ることができる日がくるでしょう。
高橋克也氏の弁護人を代表して、
弁護士高野隆
判決の事実認定は、その手法もその結果もとうてい納得できるようなものではありません。裁判所は、高橋さんに「サリンを撒くので運転手役をやるように」と指示したという井上嘉浩氏の証言は信用できないと言いました。また、高橋さんがいる部屋で「サリン」という言葉を聞いたり言ったりしたという林郁夫氏と広瀬健一氏の証言はいずれも信用できないと言いました。判決は、サリンを地下鉄に撒くという計画を高橋さんは誰からも告げらなかったと判断したのです。にもかかわらず、鼻水と涙が出たので自動車の窓を開けたとか、渋谷の拠点にもどって林郁夫氏から注射をしてもらったというような、さまざまに解釈できる事情を恣意的に取り上げ、推論を重ねて、「サリンの可能性を含む、人を死亡させる危険性の高い揮発性の毒物を撒くと認識していた」などと認定しました。
裁判所は弁護人が指摘した無罪方向の証拠を無視することすらしました。例えば、「高橋の方から『中毒が心配だから治療して欲しい』と言って寄ってきた」という林郁夫氏の証言について、林氏は事件直後には警察から写真を示されて「高橋はサリン事件のメンバーの中にいなかった」と述べていたのです。いなかったと思う人間から「中毒が心配だから治療して欲しい」と言われたと記憶することなど不可能です。しかし、裁判所はこの重大な証拠を黙殺しました。そして、林郁夫は「被告人が争っているサリンの認識に関わることについて、特に慎重に証言している」などと全く根拠のない、むしろ真実とは真逆の評価を行いました。そもそも、「人を死亡させる危険性の高い揮発性の毒物」のせいで急に鼻水と涙が出たと感じている人が、わざわざ遠回りして時間を潰してから拠点に帰るでしょうか?
VX事件では、事件にかかわった出家信者の多くが教団製の「VX」なるものの効力に大いに疑問を持っていました。その疑問には根拠がありました。実際に最初の実行では何らの効果もありませんでした。判決は、あえて従来品とは異なる「新しいVX」が濱口さんに使われたと言いました。しかし、そのことが高橋さんには知らされていなかったという事実を無視しました。高橋さんが井上の指示で病院に行ったという事実を無視して、病院に行ったという点だけを取り出して、「殺傷力があることを当然の前提としたもの」と決めつけました。
假谷事件では、「すでに麻酔薬の影響を脱していた」「心不全のような突発的なこと以外に死亡の危険はなかった」という林郁夫の証言にあえて目をつぶり、假谷清志さんの死因を「麻酔薬の過量投与による副作用」だと決めつけました。他方で判決は、麻酔薬が使われることについて高橋氏が知らなかったことを認めました。そうであるにもかかわらず、麻酔薬の投与は「主要部分(骨格)」ではないと言って致死の責任まで認めてしまいました。
都庁事件では、裁判所は世界中の科学者が依拠する爆風圧の定義を無視しました。そのうえで、爆発物の人体への影響に関する研究者が具体的な数値と症例を示して、この程度の爆薬の量では人が死ぬことはないと証言しているのを過小評価しました。そして、実際に人が死んでおらず、事件に関与した関係者が口を揃えて「人の死は望んでいなかった」、「鉛玉を入れるのをやめた」と証言しているのを無視して、「大きなことを起こす」とはすなわち「要人を殺すこと」に他ならないと決めつけました。
これらはほんの一部です。刑事6部の証拠評価、事実認定の問題点は枚挙に暇がありません。
地裁の判断の問題点はその訴訟手続にもありました。事件の「首謀者」とされる人物の証人尋問の請求を裁判官たちは「必要性がない」と言い張って却下しました。「サリン」や「VX」の製造を担当していたとされた人物の証人尋問も却下しました。製造者本人の証言も聞かずに、使用されたのは「新しいVX」であるとか、その「殺傷力は明らか」などと断定しました。裁判所はさらに、全く必要性がなく当の証人が嫌がっているにもかかわらず、法の要件とその立法経緯を無視して、「死刑囚」が証言する姿を傍聴人に見せないようにする「遮へい措置」を実行しました。さらには、証人がそれを希望しているというだけの理由で公判期日を取り消して同じ日の同じ時刻に「期日外尋問」をするという明白な脱法行為までしました。こうした裁判所の措置は、刑事被告人の憲法上の権利を直接侵害するものです。
われわれは一方的で不正確な情報だけを伝えるマスコミ報道が裁判官や裁判員の判断にどの程度の影響を与えたのか分かりません。また、評議室のなかで市民の代表である裁判員がどの程度活発に意見を延べ、それが判決にどの程度反映したのかも分かりません。全ては「守秘義務」のベールに包まれています。裁判員や補充裁判員は判決言い渡し後も自ら体験した事実を表現する自由を奪われたままです。しかし、いつか必ずこの理不尽な状況は改善されるだろうと思います。裁判員が評議室のなかで体験した真実を語ることができる日がくるでしょう。
高橋克也氏の弁護人を代表して、
弁護士高野隆