2011年02月19日

弁護士は誰とでもすぐに仲良くなれるとは限らない

東京地裁の法廷の弁護人席で裁判官の登場を待っていると、スーツ姿の見知らぬ男女5名が法廷に入ってきて、そのうちの2人が傍聴席のバーを越えて、私の後ろに入り込んできた。残りの3人は法廷の反対側、検察官席に向かった。ジャケットの襟に司法修習生のバッジをつけている。私の後ろには長テーブルがあり、私のコートとカバンが置いてある。修習生が躊躇している姿に気付いた裁判所書記官は迷いもせずに、私のカバンとコートをどけて、修習生のための席を整えた。修習生は私に何の挨拶もなく、無言で私の背後のテーブルに着席し、もっともらしく三省堂模範六法の適当な頁を繰って目を落としているふりをした。

私の内部ではめらめらと怒りの炎が燃え盛った。が、今日は判決言渡しだけなので、依頼人のためにも我慢しようとした。そしてちゃんと我慢できた。

これほど失礼な、無神経な、無礼極まりない振る舞いがあるだろうか。無言で勝手に他人の所持品をどかして、挨拶もなく人の背後に陣取るなどということが許されるだろうか。江戸時代の武士の作法からすれば、私の背後に無言で近付いた瞬間に私に切り捨てられても申し開きは許されまい。現代の法廷において弁護人は訴訟記録や尋問メモを弁護人席において、法廷活動をする。ときには依頼人と小声でコミュニケーションをする。そのときに、背後に見ず知らずの他人がいるなどということはおよそ想定外である。そのような状態で十分な弁護活動ができるわけはない。

彼らは裁判官の下で実務修習をしているのであり、弁護人である私の下で修習しているのではない。私は彼らの名前もしらない。彼らは全くの赤の他人である。しかし、裁判員や傍聴人はそれを知らないだろう。私の後ろにいる以上、弁護人か少なくとも弁護人の関係者だと思うだろう。彼らが証人尋問中に鼻くそをほじっていたらどうだろう。被告人質問中に居眠りしていたらどうだろう。「被害者」の意見陳述の間に今晩の飲み会の打ち合わせをひそひそにやにやしていたらどうだろう。私や私の依頼人には彼らを管理できないのに、彼らの不始末の不利益はわれわれが負うことになる。

これは最近の東京地裁で頻繁に行われるようになったことである。私の1回だけの体験ではない。すなわち、東京地裁の裁判官たちは話し合いのうえで、組織的に修習生を当事者席に座らせることを決定したのだ。これほど不躾なことを事前に何の連絡もなく、さも当然のように一糸乱れず遂行できる裁判所というのは、一体どんなところなんだろう。それを指揮した裁判官という人たちはどういう人間なんだろう。少なくとも、彼らは、弁護人の法廷における仕事が秘密や自由を扱うセンシティブなものであることを理解していない。弁護士というのは、その背後わずか40センチの範囲を犯されても何も感じない人間だと思っている。それだけは確かである。

私が修習生をしていた30年前には、弁護修習中の修習生は弁護人席に座り、検察修習中の修習生は検察官席に座り、そして、裁判修習中の修習生は法壇の上の裁判官席に座ったのである。最近になって、裁判所は修習生を法壇から追い出した。それでも弁護人席に勝手に座らせることはなかった。法壇の横に修習生を座らせた。今回の動きは、おそらく裁判員裁判の法廷の構造が原因であろう。裁判員法廷の法壇は非常に大きい。そのために、法壇のうえ以外に修習生を置いておくスペースがない。現代の裁判官は司法修習生を法壇に置く勇気などない。弁護人席なら問題ないだろう。この小役人根性と弁護人を見くびる姿勢が今回の出来事の背景にある。

弁護士は、このような理不尽に対して黙っていてはいけない。依頼人のためにもまた刑事弁護のためにも毅然とした態度をとるべきである。その場で声をあげ、自分の背後から不逞の輩を追い払おう。そうでなければ、法廷における弁護の地位はますます矮小なものにされていくだろう。全国の同志よ。立ちあがれ!怒れ!


plltakano at 23:09コメント(22)刑事裁判 | 刑事弁護の実務  このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント一覧

1. Posted by 水橋孝徳   2011年02月27日 05:14
ご無沙汰しています。教え子です。

記事を読んでいて、クリニックのロースクール生はバーの内側に入れなかったことをふと思い出しました。当事者じゃない者のスペースを作るくらいなら、守秘義務を負って弁護活動に当たっている当事者(ないしそれに準じる者)のスペースを作ってくれればいいのに、と。
もちろん、これは別論かもしれないですが。

宇都宮地裁では、裁判員法廷においても、裁判所修習中の修習生は法壇の上で裁判官席の後ろに座ります。そのため今のところ弊害は出ていませんが、今後不幸な機会があったらきちんと申入れをします。切捨御免にまでできるかは自信がありませんが、笑。
2. Posted by 高野隆   2011年02月27日 12:15
刑事被告人には、クリニックの学生とか事務員とか通訳とか弁護人の仕事を補助する人を弁護人席に座らせる権利があると思います。それは、弁護人の援助を受ける権利の一部であり、憲法上の権利だと思います。

日本の裁判官は、この権利を認めないことが多いです。その一方で、今回のように、被告人にとっても弁護人にとっても全く「赤の他人」にすぎない部外者を座らせるというのは、彼らの頭の中の何かが根本的に狂っているような気がします。
3. Posted by 通りすがり   2011年03月01日 23:31
法廷のことは知りませんが、怒ったのなら、我慢せずに、言ってみたらよかったと思います。相手も気づくと思います。
4. Posted by 高野隆   2011年03月01日 23:43
怒ったら、すぐに書記官が修習生を傍聴席に追いやりました。
5. Posted by 通りすがり   2011年03月01日 23:54
そうでしたか。
昨年に、会社が休みだったので、裁判を傍聴に行ったのですが、裁判員裁判をやってたのでのぞいてみたところ、先生の裁判でした。
証人の証言のあいまいさをうまく導き出したり、先生の質問がとても巧みで感銘しました。
がんばってください。
6. Posted by 思いつき   2011年03月03日 00:11
裁判員裁判を担当してみて,弁護人は弁護士だけですが,一方の検察は検察事務官まで公判前整理手続きに参加し,実質的な補助をしています。

この場面だけでもどうにかなんないものかと思います。
7. Posted by 通りすがり   2011年03月14日 00:37
もともとその席は修習生用であると言うことは知っていたわけですよね?ならそこに荷物を置くと言うことは非常識な行為に当たらないのですか?仮に修習生用とすること自体が問題だというのであれば、事前に裁判官や書記官に言うべきことでは?そこで裁判官が最終的にどのような判断をするかはわかりませんが、これについては訴訟手続の中で訴えるしかないでしょう。
8. Posted by 高野隆   2011年03月15日 17:41
通りすがりさん、
弁護人が座る席の後ろのデスクと椅子は当然弁護人が使う席です。必要に応じて書類や鞄や様々なものをおいて使います。法廷には「修習生用」の席なんてものは存在しません。
9. Posted by 通りすがり   2011年03月22日 21:01
お返事ありがとうございます。
確かに理屈として先生がそうおっしゃるのはわかります。
しかし裁判所の訴訟指揮(?)として修習生用の席をその場所に用意した以上それに不満があるなら先生の理屈で不服を申し立てるべきでは?司法修習生が法廷傍聴を柵の内側で行うこと自体が問題というのならその旨申し立てるべきでは?
先生が「当然ここは弁護人の席だ」とおっしゃり、それとは異なる現実がある以上、この問題は裁判所で争うべき事項で、裁判官に不服の申立もせずに「当然こうだ」「狂ってる」というのは法律家とは思えない言いがかりに過ぎないと思います。先生が「俺はアウトローだ」とおっしゃるのであればそれはそれで筋は通りますが。

なお「現代の裁判官は司法修習生を法壇に置く勇気などない。」というのはこれこそ言いがかりのように思います。私は法廷傍聴にもよく行きますが、先生がどうというのではなく、全体として見た場合、こざかしくやる気のない弁護士や騒ぐだけのドンキホーテ弁護士はよく見かけましたが、見ていて心配になる裁判官や検察官は、少なくとも弁護士ほどは見かけることはありませんでした。仮に先生の理屈で考えるのならばなめられる弁護士という組織体にも問題はありそうですがいかがでしょうか。
10. Posted by 高野隆   2011年03月24日 11:39
法廷のなかのどこにだれを配置するかは、最終的には裁判長が決めるんでしょうね。しかし、修習生は裁判長が入廷する前に私の背後に座ろうとしたのです。別の機会には、私は「そういうことは止めて下さい」とその場で言いました。すると、修習生は傍聴席に移動しました。開廷後裁判長はそのことについて何も言いませんでした。だから、私と裁判長の間になにもやり取りはありませんでした。

そこで、裁判長が私の意向を無視してなおも修習生を私のに背後座らせようとしたら、私は当然その「訴訟指揮」に異議を述べたでしょうね。

「勇気がない」という私の発言が「言いがかり」だというならば、実際に刑事裁判で修習生を法壇に座らせている例を教えてください。私は最近は全然見たことないです。
11. Posted by きのしたのぶゆき   2011年04月14日 15:03
法廷委員会で問題にすべきではないでしょうか。

少なくとも、二弁の刑弁委員会にご報告をお願いします。
幣原さんから、三会刑弁にご報告が上がれば、三会で動けると思います。
12. Posted by 長崎   2011年04月20日 16:58
長崎の裁判員裁判では、弁護人用の速記者(多くは事務員)がバーの中に入って速記を取ることができる運用になっているようです。直接目撃したわけではないですが。
これが波及すればロー生も補助者としてバーの中に入れるようになるかもですね。
13. Posted by 匿名希望   2011年04月26日 17:21
1 被災地で震災を容疑者を釈放した途端に再犯を犯した
不届きものがいるというニュースがあった。
仮に震災を理由に弁護人が保釈を申請していたと
すればとんでもない話である。
私個人としては被災地では朝鮮人や中国人による
窃盗が多発しているという説もあるが被災地の管轄警察署や拘置所に収容が不可能な場合には被疑者連中を小菅等の拘置所に移管し連行すべきではないかと思う。裁判を行うことが不可能な場合には
空き法廷すべてを使い東京地裁で被災地の裁判を
行うことも検討すべきであろう。
14. Posted by 高野隆   2011年04月27日 20:58
匿名でこういう投稿をする奴は最低です。「雷に打たれて死んでしまえばいいのに」と心の底から思います。
15. Posted by 匿名希望   2011年04月28日 16:03
私の投稿がどこが最低かご説明いただきたい
先生の回答しだいではあなたを侮辱罪で刑事告訴をするか埼玉弁護士会に懲戒請求を要求することも考える
ネットでのプライバシーは内部告発その他の観点を
かんがみれば守られるのは当然であろう。
私の意見がおかしいのなら論理的に説明すべきである。
16. Posted by 匿名希望   2011年04月28日 16:15
第二次世界大戦後の混乱期には在日による
略奪行為や闇市でのヒロポン密売があったと
山口組の田岡組長の著書に書かれている。
朝鮮人の話を例に挙げたのはこれを参考にしたまでだ。
先生も長期間刑事弁護をしているのであるから
犯罪者の中に朝鮮人や中国人の割合が高いのはご存知なはずだ。それを指摘するのどこが最低なのか説明していただきたい
17. Posted by 匿名希望   2011年04月28日 16:31
蛇足でもうひとつ書かせてもらうと私が裁判員制度に反対の理由の一つは裁判官や教職員のように試験の末に選抜されなおかつ思想的にある程度統制がとれ定期的に
資格を更新しなければならない人が裁くのであれば
完璧は無理にしても不偏不党の裁判がある程度は望めるが裁判員制度というのはこれまで陪審制度推進であった
左派でさえ徴兵制と揶揄するほど選別制が低い
抽選制度で選ばれるのであり、過去には小松川事件の犯人李等在日朝鮮人で死刑判決が出て処刑されていたものも何人かいるが在日朝鮮人の何者かが小松川事件の李のような極悪非道な犯罪を犯した場合でも裁判員が帰化人または在日の亜流の系譜に属す人間であった場合には
政治的な意図で事実判断または量刑において手心が
加えられてしまう恐れがあるからである。もちろん善良な在日が不当な差別を受ける事はあってはならないが過去には李や金嬉老のような凶悪犯罪者が在日朝鮮人の中から出ているのは事実なのであるからこうした意味でも私は裁判員制度は反対なのである。
18. Posted by きの   2011年08月08日 11:37
先日の公判でのこと

異動で裁判官が交代した。
顔を見れば分かる。
弁護人には、すぐに、分かったが、被告人はどうだったろうか。
裁判官は席に着くと、更新手続きを始めた。

おい!
その前に、
>裁判官が替わりました。
>私がこれからこの事件を担当します。
>よろしくお願いします。
と言えないのか!

そういえば、第1回公判で、
>私が担当裁判官です。
と自己紹介しないなあ。
19. Posted by 高野隆   2011年08月08日 22:58
そもそも「更新手続」というのが「手続」と呼べるようなしろものではありませんね。
「従前どおりでよろしいですね」「はい」。2.5秒で終わりです。
刑事訴訟法を作った人たちはまさかこれが「公判手続の更新」だなんて考えなかったでしょう。
20. Posted by 遂犯無罪   2011年08月31日 19:14
私たち家族は、柏警察の伊藤氏より「保険だけは絶対に調べるなよ」と忠告を受けていたため保険の話には誰も協力しませんでした。
その後に母いねが死亡したことにより、母の遺言公正証書で、私が全ての権利者となりましたので、平成17年10月10日、松戸裁判所調停相談会に相談にゆきました。

行く途中■■裁判所の一族で地方暴力団●●氏より、和解を匂わせた電話連絡が入りましたが、そのまま裁判所に相談に行ったところ、三ヵ月後、同行した元事務員の長男と姉・輝子の子供・石井豊が不可解な死亡をしました。

これらは私に対する口封じだと思い、今日まで不払い保険金の請求は出来ませんでした。
真実を話せば殺されてしまう日本の政権が変わったことで、生田先生にお話し委任することができました。
http://suihanmuzai.web.infoseek.co.jp/110901.jpg.html

死者からの伝言・この国の司法の姿
http://suihanmuzai.web.infoseek.co.jp/110426.jpg.html
21. Posted by アッピオ   2020年01月05日 08:33
ワイは傍聴席でした
22. Posted by たかし   2022年03月22日 08:07
修習生席に物を置いちゃダメですよ。

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