2008年06月13日
特別公判部の問題
東京地方検察庁は、裁判員裁判の対象となるすべての事件の捜査と公判を「特別公判部」に所属する同じ検事に担当させることにしたそうである。「事件の捜査から裁判まで同じ検事が一貫して担当することで、迅速で、一般から選ばれる裁判員にもわかりやすい裁判が期待できる」と言うことである(NHKニュース2008年3月6日)。
このやりかたはこれまでにも例があった。検察官の数が少ない地方では、捜査検事が公判にも立ち会うといのがむしろ一般的である。しかしこのやりかたには問題がある。
捜査検事は被疑者の取り調べを行う。さらには被害者や共犯者など、将来の裁判で検察側証人となる人の取り調べも行い、彼らの供述調書を作る。そうすると、たとえばこんなことが起こる。被告人が公判廷で事実関係を争い、「認めなければ死刑を求刑するぞと検事に脅されて、恐ろしくなって自白調書にサインした」と言って自白を翻したとしよう。こういう場合、公判に立ち会っている検事(公判検事)は、取り調べをした検事(捜査検事)を証人喚問する。捜査検事は、法廷に出てきて、取り調べの様子を証言することになる。「私は死刑の話なんかした覚えはありません」と言って、被告人との間で「水掛け論」を展開する。検察側の証人が公判廷で検事調書と異なる内容の証言をした場合も、同じようなことが起こる。気が変わった検察側証人は「検事から『あなた1人の仕事とは思えない。山田から命令されたんだろ』と言われた。『捜査に協力したということで、求刑もそれなりに考える。執行猶予もあり得る』とほのめかされた」というような証言をする。証人に呼ばれた捜査検事は、穏やかに微笑みながら「日頃から取り調べ中に量刑の話しはしないように心がけています」と言う。
この「証言合戦」において、日本の職業裁判官はほとんど例外なく、捜査検事に軍配をあげる。彼らは「被告人の供述は、○○検事の証言に照らして信用できない」という決まり文句を言って検事調書を採用するのが常である。じかし、ごくまれに、検事の証言にほころびが出ることがあり、検事調書が却下されるということが起こる。
けれども、特別公判部の事件ではこうした事態も起こらなくなるであろう。特別公判部が担当する事件では、捜査検事が公判に立ち会う。いや、公判が始まるずっと前、公判前整理手続の段階から裁判官と顔を会わせ、弁護人側の証拠を含むすべての証拠を検討する。公判では全ての証人尋問に立ち会い、自ら尋問もする。要するに、この検事は、誰よりも事件の争点と証拠に精通している。その同じ検事が自分自身を証人申請するのである。これほど有利な証人はないだろう。刑事訴訟規則123条2項は、証人予定者が在廷するときは退廷させなければならないとしている。これは、他の証拠や証言の内容を知ってしまうと、証人はその影響を受けて証言を変更したり偽証したりすることがあるからである。捜査検事を公判に立ち会わせることは、この規定に違反するのではなかろうか。ちなみに、アメリカ法曹協会(ABA)の法律家の職務に関する模範規則(弁護士と検察官に適用される)は、自分が証人になることが予想される事件について訴訟代理を行うことを禁じている(ABA Model Rules of Professional Conducts, Rule3.7(a))。
このやりかたはこれまでにも例があった。検察官の数が少ない地方では、捜査検事が公判にも立ち会うといのがむしろ一般的である。しかしこのやりかたには問題がある。
捜査検事は被疑者の取り調べを行う。さらには被害者や共犯者など、将来の裁判で検察側証人となる人の取り調べも行い、彼らの供述調書を作る。そうすると、たとえばこんなことが起こる。被告人が公判廷で事実関係を争い、「認めなければ死刑を求刑するぞと検事に脅されて、恐ろしくなって自白調書にサインした」と言って自白を翻したとしよう。こういう場合、公判に立ち会っている検事(公判検事)は、取り調べをした検事(捜査検事)を証人喚問する。捜査検事は、法廷に出てきて、取り調べの様子を証言することになる。「私は死刑の話なんかした覚えはありません」と言って、被告人との間で「水掛け論」を展開する。検察側の証人が公判廷で検事調書と異なる内容の証言をした場合も、同じようなことが起こる。気が変わった検察側証人は「検事から『あなた1人の仕事とは思えない。山田から命令されたんだろ』と言われた。『捜査に協力したということで、求刑もそれなりに考える。執行猶予もあり得る』とほのめかされた」というような証言をする。証人に呼ばれた捜査検事は、穏やかに微笑みながら「日頃から取り調べ中に量刑の話しはしないように心がけています」と言う。
この「証言合戦」において、日本の職業裁判官はほとんど例外なく、捜査検事に軍配をあげる。彼らは「被告人の供述は、○○検事の証言に照らして信用できない」という決まり文句を言って検事調書を採用するのが常である。じかし、ごくまれに、検事の証言にほころびが出ることがあり、検事調書が却下されるということが起こる。
けれども、特別公判部の事件ではこうした事態も起こらなくなるであろう。特別公判部が担当する事件では、捜査検事が公判に立ち会う。いや、公判が始まるずっと前、公判前整理手続の段階から裁判官と顔を会わせ、弁護人側の証拠を含むすべての証拠を検討する。公判では全ての証人尋問に立ち会い、自ら尋問もする。要するに、この検事は、誰よりも事件の争点と証拠に精通している。その同じ検事が自分自身を証人申請するのである。これほど有利な証人はないだろう。刑事訴訟規則123条2項は、証人予定者が在廷するときは退廷させなければならないとしている。これは、他の証拠や証言の内容を知ってしまうと、証人はその影響を受けて証言を変更したり偽証したりすることがあるからである。捜査検事を公判に立ち会わせることは、この規定に違反するのではなかろうか。ちなみに、アメリカ法曹協会(ABA)の法律家の職務に関する模範規則(弁護士と検察官に適用される)は、自分が証人になることが予想される事件について訴訟代理を行うことを禁じている(ABA Model Rules of Professional Conducts, Rule3.7(a))。